「祓う対象は……彼女の友人。半年前に事故で亡くなったって聞いた」
「それって……」
うん、似てるよね。
大切なひとを亡くして、眠る時間が増えたっていうその状況。
まるで……今の澪ちゃんの状態と同じ。
「そこで出てくるのが……眠りの家なの」
眠りの家。
その呼び方の通り、その家には夢の中で誘われる。
雪がしんしんと降る中に聳える、古い日本家屋のそこは、酷く歪で酷く暗いと私は聞いた。
それは眠り続ける女性の家族が、その女性から聞いた話らしいのだけど。
「眠りの家はね、それとは別に死者に逢える家……そして、その死者に誘われる家と言われているの」
告げた私の言葉に対する螢の反応はさほど大きくはなく。
……その辺りは優雨から聞いていたんだろうと思われた。
優雨、そういう話詳しいから。
私が話した時もむしろ優雨の方が詳しいんじゃないかって思うくらい、逆にいろいろ教わったし。
……あの一件以降は忘れてたけど。
ちなみに、私が主で関わっていたわけじゃなかったから、そのひとがどうなったかまではわからない。
私、あくまで手伝いだし。
まあたまには私が除霊することもあるけど。
とにかく今はそれよりも。
「……つまり、澪はその家の夢……いや、その夢で逢える繭を追い続けているってことか」
「夢の中の状況はわからないけど、繭ちゃんを求めていることは確かだと思う」
……繭ちゃんのこと、実はもう螢には伝えてある。
どういう状況でこうなってしまったのかを知る澪ちゃんはまったく語ろうとはしないし、私なら繭ちゃんと話すこともできるけど、繭ちゃんも語ろうとはしてくれなかった。
ただ、傍にいる、と。
それだけを伝えて欲しいと願って。
螢に話した時は取り乱すかと思ったし、最悪私が吐け口になろうという決意もしていたけれど、予想に反して彼は落ち着いてそのことを受け入れてくれた。
螢はあまり霊的なものを信じない、世に言うリアリストで、それ故に霊感もさほどないのだけど、でもそれでも彼は私の言葉は信じてくれる。
どんな時でも、私の言葉は信じてもらえた。
……私が視ている、世界も。
螢に言わせれば、それは霊的なものを信じているわけではなく、私を信じてくれているとのことで。
案外頭の固いところもあるよねと思いながらも、私を信じてくれているというその言葉は凄く嬉しかった。
「とにかく。調べてみる必要はありそうだな」
「うん、私もそう思う」
顔を見合わせ頷き合って。
私たちの目指す目的が、決まった。
三・了
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