聖者と魅惑



そんなわけで何とか合流を果たせた今、あとはイルと合流し、結界を解くわけだが。


「あ、今、本体がいる部屋の扉を閉ざしている結界の力が消えました! これで本体と戦えるはずです」


山岸からの通信。それにより、イルが結界を解くことに成功したのだと知れ、梓董は小さく息を吐く。やはり彼女から目を離すべきではないなと、心的負担を考慮し改めて認識した。目の届くところにいても無茶をするのだ、放っておくと何をしでかすか知れたものではない。

……過保護がすぎるかもしれないが。


「じゃあ、イルと合流しよう」
「……イル? イルが来ているのか!?」


何の気なしに告げた言葉は梓董や岳羽にしてみれば何もおかしなところなどないものだが。どうやらまだ事情を知らなかったらしい真田と伊織が驚いた様子で目を見開く。てっきり山岸が報告したものだと思い、梓董も岳羽もわざわざ伝えたりはしなかったそれを知り、真田の眉根が寄せられた。


「……あいつ、また無茶をしたのか……。とにかく、探すぞ」


過保護なのは何も梓董に限ったものではないらしい。

まあ多くに関心を抱かない梓董がイルに関してはその身を案じるというのは些か意外かもしれないが、真田は性分的なものだろう。

人が好いのだ。……決して他意はない、はず。

知らず抱いた不快感を隠すように、梓董は自分に言い聞かせるかのごとくそう無意識に思い込む。その間に再度山岸からの通信が入った。


「あ、イルちゃんなら先に敵シャドウの待つ扉の前まで向かってますよ。そちらで合流してください」


…………。

何て自由なんだ。

こちらの心配など全く気付きもしないのだろう、奔放に駆ける彼女に小さく溜息が出る。そこに含まれるのは呆れと……それでも彼女らしいな、というどこか穏やかな思い。

何も問題はなかったようだが、だからといってのんびり合流する必要はどこにもないので早々にそちらに向かうことにした。階段を駆け上り、つい先程法皇タイプの大型シャドウを倒したばかりの奥の部屋まで駆ける。山岸の言葉通りその扉の前に一つの白い影を見つけ、すぐにそちらへと駆け寄った。


「あ、皆!」
「イル、怪我は……」
「皆、じゃない! 何でおまえがここにいるんだ!?」


緊張感に欠ける笑みを浮かべながらこちらを招くようにのんきに手を振るイルに、梓董が声をかけようとするが。それと同時に言葉を発した真田の勢いと声量に圧され、かき消されてしまう。
それに僅か苛立つが、そんな梓董の様子に気付きもしないイルは真田の勢いに驚き戸惑い、そして困った様子で視線を逸らした。


「あ、あー……えーとそれはまあ、戒凪のピンチにあたしが駆けつけるのは当然……」
「じゃない! 何度言えばわかるんだ。大体、こんなところに一人で来るなんて」
「いやだからそれは……て、ちょ、ちょっと、真田先輩! それどころじゃないです! 待って、戒凪ー!」
「! お、おい、梓董! 単独行動は……」


……何とも賑やか、というよりもそれすら通り越して煩さを感じる二人のやり取りは放置して。

実はそれが終止符に一番良いと前回の満月時に少し理解できたためなのだが、とにかく。

溜息一つ残し、何の宣言もなく梓董は大型シャドウの待つ部屋に続く扉を開け、中へと踏み入ってしまう。それに伊織と岳羽が僅か慌てながら続き、その後にイルと真田の二人も慌てて続いた。

所謂ボス戦前だというのに、こんなにもぐだぐだでいいのだろうか。

とにかく、過程はどうあれ部屋に踏み入った五人を迎えたのは、巨大なハート……もとい、恋人タイプの大型シャドウだった。……どうやらこのシャドウが精神攻撃を仕掛けてきた元凶のようだ。




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