聖者と魅惑
七月七日。
世間的に七夕と呼ばれる今日この日が。
今回の、満月の夜だった。
《07/07 聖者と魅惑》
影時間となるなり早々に周囲の様子の探索を開始した山岸が、彼女のペルソナにて見つけ出した大型シャドウの反応。それはどうやら市街地から発信されているらしく、詳しい場所の特定もすぐさま行われた。
白河通り沿いのビル、ホテル・シャン・ド・フルール。
そこが今回の決戦の舞台となるらしい。
白河通りと言えばアミューズメントホテルが建ち並ぶ通りだということだが、俗物的に言うなればホテル街、と知る人には呼ばれているようで。その単語を耳に嫌な予感がすると待機を申し出た岳羽を伊織がからかうものだから、案の定というべきか彼女の自尊心に火が着き、結果何が何でも突入メンバーとして作戦に参加する気負いを見せることとなった。
何だか既視感を覚える、というよりも成長しなさすぎやしないか、この二人。
呆れに息を吐いた梓董は、しかし拒否する労力を惜しむことも面倒なので、とりあえず岳羽を突入メンバーとし残る二人を決めることにする。まあサポート担当である山岸を一人残すわけにもいかないのだから、やはり突入は普段通り四人で行うのが妥当だろう。
さて、誰を連れていこうか。
戦力的に考えるなら、やはり梓董同様ペルソナを自在に変えられるイルが一番頼りになりそうだが……。
……何となく、彼女をそのホテルに連れて行きたくはなかった。
何故、と問われると明確な返答を口にすることができないのだが、不明瞭な感情のくせに嫌だと思う気持ちだけは強く。私情もいいところだと思いはすれど、今回の作戦、イルには待機してもらうことにした。
……目を離しても不安ではあるのだが。
まあとにかく。そこからまた残ったメンバーを考慮し、普段こそ普通に会話を交わすように戻ったとはいえ、イルと共に伊織を残すには若干不安を拭いきれない。よって、伊織には突入メンバーの方に加わってもらうことにし、残るは先輩方二人となるわけだが。
……真田にも、イルと共に残って欲しくはない。
明確な形すら得ない感情は、しかし強まりゆくことだけは留まらず。客観的に決めきれない自分がリーダー権を持つなど、少しばかりおかしくもなる。
まあ真田と桐条ならばどちらも共に対シャドウに対する戦力、経験、両面で頼りになることは事実。ペルソナの能力も他の誰と被るというわけでもなし、どちらが突入メンバーとなっても問題はあるまい。
ということで、私情を挟みつつも支障をきたさないメンバー、岳羽、伊織、真田と共にホテルへと突入することが決定した。
……まあ、イルのペルソナ能力を考慮すれば、本当は彼女がいた方が戦力になるという事実には目を瞑ることになるが。
とりあえずホテルまで全員で移動する、その道中。今回は前回のような何らかの事情を抱えているわけではないらしいイルが、少しばかり不安そうに問いかけてきた。
「あの、さ、戒凪。……あたしって、その……頼りない?」
何を突然、と、問う必要は梓董にはない。何故ここでそんな問いかけをしてくるのか、理由なら検討がつくからだ。
だがしかし、ここで正直にそんなことはないと告げてしまえば、だったら何故今回メンバーから外したのかという問いに発展しかねない。そうなってしまうと正直答えに窮してしまうわけで。かと言って頼りにならないわけがないことは梓董でなくともわかる事実なのだから、嘘を吐くわけにもいかない。
虫のいい話かもしれないが、彼女を傷付けたいわけではないのだ、決して。
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