再来、再逢



ぽつり。
思い出して呟けば、疑問符を浮かべた西脇と少女に仰がれる。直後、少女の黒い瞳が大きく見開かれた。


「あ! あの時の……っ! す、すみません、私……っ、お世話になったのに気付かなくて……っ! あ、あの、あの時はご親切にありがとうございました!」


思い出したらしい少女の頭が勢いよく下げられ、一人事情がわからない西脇がその様子に目を瞬かせて少女と梓董を交互に見やる。


「え、何? 梓董くん、知り合い?」
「いや、会うのは二回目」


どうやらこの少女、数日前に校舎前で出会ったあの少女に間違いないらしい。

親切に、などと大袈裟に礼を言われるようなことなどした覚えはないが、あの時困っていた様子だったことは確かで。まあそれも職員室の場所がわからない、程度のものですぐに解決したのだが。

なるほど、今日のこの練習試合の申し込みに来ていたのかと、一人納得する。大した説明も必要ない話なので、西脇にも軽く伝えるだけで理解を得られた。


「あ、すみません。私、名乗りもしないで……。あの、私、入峰琉乃といいます。えと、まだ一年生ですが、マネージャーを務めてます」
「……梓董戒凪」
「梓董さん……。あの、本当にありがとうございました」


自己紹介を交わし、もう一度頭を下げる少女、入峰は、律儀というか何というか。とにかく、それほど畏まらなくとも良いのにと、梓董は内心で息を吐く。たかだか職員室の場所を教えたくらいで大袈裟だ。


「おーい! マネージャー!」
「あ、はい!」


梓董の内心など露知らず、自身の高校の剣道部員に呼びかけられ、入峰は慌てて返事を返す。用事があると手招きをする部員を目に、入峰は僅か戸惑いを見せ、それから申し訳なさそうに梓董と西脇を見やった。


「あの、すみません。私、行きますね」
「あ、うん」


小さく頭を下げ身を翻し、ぱたぱたと駆けてゆく様は何だか少し忙しない。西脇もそうだが、どこでもマネージャーとは忙しいものなのだろうか。

そんなことを遠く思い、結局は常の如くどうでもいいかと終結した梓董の隣で、ぽつり、西脇が一人ごちる。


「……うーん。あの子、私もどこかで見たことがあるような気がするんだけどなあ……」


職員室を探してたって時は見かけなかったはずだけど。一人小さく呟く西脇のその感覚は、奇しくも初めて入峰と会った時に梓董も抱いたものと同じで。けれど西脇もまた梓董同様、その先にまでは進めないらしい。

首を傾げ思いあぐねている間にも、時は流れてゆくもので。ややあって練習試合の開始時間が訪れる。結局この日、その疑念に答えは出なかった。









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