謎の、少女



復帰を果たした学校生活。
徐々に慣れつつあったその頃、思い出したようにその話題は戻ってきた。










《4/23 謎の、少女》










「そう言えば。色々あって忘れてたけど、あの時の女の子、誰だったのかな」
「へ? 何々? 女の子?」


ぽつり。
帰宅した寮のラウンジで、手にしていた雑誌から視線を上げた岳羽が呟けば、妙に食いつく新たな寮生かつ同級生、伊織順平。女の子、に目がない彼を呆れ気味に半眼で見やる岳羽に、読書をしていた桐条の視線が向けられる。


「……あの時?」


問われれば、岳羽は一瞬驚いたような戸惑ったような表情を浮かべ。それから、どこか躊躇いがちに言葉を続けた。


「あ、いえ……。あの、この間の、あの大型シャドウに襲われた時なんですけど。あの時、屋上に一人の女の子が立っていて……」
「何? それは間違いないのか?」
「あ、はい。間違いないよね、梓董君」


矛先を向けられ、今まで無言を貫き音楽プレイヤーから流れる曲に耳を傾けていた梓董が、とりあえず軽く頷くことだけで同意を示す。それに反応を返したのは桐条よりも、彼女の同級生である真田明彦の方が早かった。


「おい、ちょっと待て! その時と言ったら、影時間の真っ只中だろ!? そいつは象徴化もせずに立っていたって言うのか!?」
「は、はい。だから私もおかしいな、って思って……。先輩達の知り合いでもないんですか?」


問う岳羽に、真田と桐条は顔を見合わせ。
出た答えに桐条が首を振る。


「……いや。それで、その少女とやらはどうした?」
「どうって……」


ちらりと。
眉根を寄せながら岳羽が向けてきた視線に、梓董はあの夜に見た少女のことを思い返す。

白い、真っ白なフード付きのパーカーを着、そのフードを被った同じ年くらいの少女。
暗い空に浮かんだ丸く大きな月を背にするように振り向いた彼女は、確かに梓董に告げたのだ。



来る、と、だいじょうぶ、とを。



凛とした、それでいてどこか優しいその声音。

それはどこかで……。



――何があってもあたしはキミの味方だよ。あたしはキミを守るために、ここにいるから。



そうだ、あの時。
あの病室で聞こえたその言葉は、確かに彼女の声音だった。

だが……。


「……くん、梓董君!」
「……え?」


唐突に名を呼ばれ顔を上げれば。岳羽が困ったように眉根を寄せてこちらを見ていた。


「もう。話、聞いてた?」
「……聞いてない」
「聞いてない、って……」


正直なその返答に溜息を一つ。
それから岳羽があの少女がいつの間にか消えていたということで改めて同意を求めてきたため、梓董は頷いて肯定した。

確かに、あの時あの少女がいつどこに消えてしまったのか、梓董も見ていない。それどころか、病室で聞いたあの声が彼女のものらしいという曖昧な判断ができただけで、あの時以降姿は見ていないのだ。

……一体、どこに行ったというのか。


「……適性があるということか……。とにかく、見かけたら話を聞いてみたいところだな」


見かけたら教えてくれと続ける桐条に頷き。ポロニアンモールに出かけようと寮を出る。

耳元で奏でられているはずの音楽が酷く遠く感じるほど……。



あの少女の言葉が、耳から離れなかった。












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