小さな我が儘=可愛い我が儘?



梓董にしてみれば、あの少年について何かしらを知っていそうなイルだからこそ、確信的な真実を知っているだろうと思ったのに。隠すでもはぐらかすでもなく本当に知らない様子のイルに、思わず内心を明かす疑問をぶつけてしまった。

だからだろうか、それに気付いたイルは苦笑を浮かべ、それでも特に気を害した様子もなく平静のまま紡ぐ。


「ファルロスとシャドウの共通点ならわかるけど、その繋がりはあたしにはわからない。ファルロスが何で大型シャドウを試練だって言っているのかはあたしにはわからないし、その目的もわからないよ」


はっきりと。
紡ぐ言葉に嘘はなく、そういえば彼女がはぐらかしたり嘘を吐こうとする時は割とわかりやすいしなと梓董の考えが改まる。

それに彼女は嘘を吐くよりもまず、語らないのだ。

その彼女がきっぱりとそう言いきるということは、彼女は本当に知らないし、わからないということなのだろう。ただ。


「イルは、ファルロスが何者なのかは知ってるんだ?」


問いではない確認。
今度は梓董の方がその口調で言葉を放ち、イルの視線が僅か梓董へと向けられる。

しばし。絡んだ視線は、揺るがなかった。


「……知ってる。でも、言えない。あたしが言わなくても、その内わかることではあるよ」


答えを紡ぐ時には既にイルの視線は手元に戻され、その先のフライパンへと注がれている。相変わらずの甘い香りは、しかし慣れたからかもうさほど気になるほどではなかった。


「……そう。じゃあ、訊かない」


いずれ知れる、と彼女が言い切るのだ。
そういったことでの信頼性は確かだろう彼女の言葉であるが故に、その事実を今ここで無理に彼女から聞き出す必要はない。

端から見ればイルという少女は疑う要素こそ多いが信じられる要素など極端に低く。それはもちろん彼女の抱える謎の大きさ故なのだが、とにかくそういった存在である彼女の言葉を他人からすれば意外なほどあっさりと受け入れた梓董は、その言葉に違うことなくそれ以上この話題についてを追求することはなかった。

だから、なのかはわからないが、イルはフライパンで焼いていたそれを皿に移しながら、小さく笑む。


「……やっぱり戒凪は戒凪だね」
「? 何、突然」


どこか嬉しそうに呟くイルの言葉の意味がわからずに訝しめば、彼女は笑みを崩さないまま緩やかに首を振った。
秘密、とでもいうかのようなその態度に、しかしやはり嬉しそうな様子であることに気付いた梓董は不快に思うでもなく。まあいいか、と自身の内で打ち切った。

その代わりにというわけではないが、今度はイルがずっと作り続けていたそれに視線を向く。どうやら丁度完成したらしいそれは、トッピングに蜂蜜とバターが乗せられた……。


「……ホットケーキ?」


見たままを口に乗せ問えば、やはりそうらしくイルが軽く頷いて首肯する。しかしそうだとわかったところで、一見して知れるそれが根底の疑問であるはずもなく、梓董の問いが消えることはなかった。




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