小さな我が儘=可愛い我が儘?



「残り八体かあ……。先が見えてきた分、気の持ち方が少しは違うよね」


寮生全員が帰宅を済ませた夜間。理事長によりかけられた召集は、例の大型シャドウについての分析の途中経過を話し合うために持たれたもの。

彼の話によれば、シャドウの種はアルカナのカテゴリ分けで十二に分けられ、その中で満月の夜にのみ現れるようだと判明した大型シャドウは、現段階でTからWまで順に現れてるらしい。
そこから予測して、大型シャドウの総数はおそらくアルカナの数と同じ十二。現在四体を退けているから、残すところ八体といったところか。

予測の域を出ない考えだが、しかし現状と併せ考えれば一概に否定できるものではないだろう。そうだ、と確定しきれるものではないにしろ、否定できる要因もない以上当面はそう判断しておいて問題はないはずだ。

残り八体とカウントダウンができるようになったことで気を抜かれるようでは困るが、あの大物を前にそんな余裕も持てまい。むしろ改めて気を引き締めるいい機会になってくれただろうと思いたいところだ。
適度になら緊張を解くことも無駄な硬直や余計な動きを減らす役にも立つだろう。

そんな中での岳羽の呟きに含まれる真意はわからないが、それでもそれぞれの想いの元、同意できるものではあった。










《06/20 小さな我が儘=可愛い我が儘?》










シャドウについてはその目的、総体として何を目指す存在なのかは未だ研究中らしいのだが、それとは逆に判明している部分は獲物を殺さずに精神を喰らう存在であるということ。それを聞かされ、目的、というその単語が少しばかり気になった梓董は、大型シャドウの残数について話し合う岳羽達から離れ、一人何やらキッチンに立つイルの元……そのカウンター席へと移動した。

近付くにつれ、甘い香りが鼻腔を掠める。また菓子でも作っているのだろうか。


「……試練、って言ってたけど」


こちらの席には幸い梓董とイルしかおらず。あまり大声で話さなければ、離れたソファで談笑する他の寮生達にこちらの会話は聞き取れないだろう。

聞かれたところで内容の意味はわからないだろうが。

とにかく切り出した梓董の言葉は唐突で、それが唯一通じる相手であるイルでも一瞬きょとんと目を瞬いた。
それでもそれは僅かの間で、彼女はすぐさま思い至ったらしく、ああと小さく頷いてみせる。その手元は止まる気配がない。


「ファルロスのこと?」


言葉自体は疑問系に放たれたものだったが、しかしその声音に疑念の色はなく、ただ確認のために口にしただけという響きを宿していた。そんな彼女の言葉に梓董は簡潔にそう、とだけ返し、後は黙す。

改めて言葉を足さずとも理解してくれると判断したのか、はたまたただ面倒だったからそれで理解してくれと願っただけか、そのポーカーフェイスからは窺い知れなかったが、イルは特に気にした様子もなくいつもと変わらぬ態度で口を開いた。


「試練、かあ……。あの大型シャドウのことを言っているんだとは思うけど」
「……思う?」


確信に欠く物言い。
含む感情にも嘘はなく、本当に思った通りを口にした、といった様子だ。




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