思考はそれぞれ、嗜好もそれぞれ



女性というものは大概甘味を好む傾向にあるらしい。

それを真田へと伝授したのは他でもなく同じ寮で生活をする伊織順平で。まあ彼が彼なだけに信憑性は怪しいが、とりあえずそれは置いておき。

彼が何故それを真田へと教えたのか等諸々の疑問は尽きないが、それをこのタイミングで思い出したことは本当に全くの偶然。たまたま今日は予定がなく、そこにたまたまイルが通りかかり、そしてたまたま伊織に教えられたその情報を思い出した。

そう、偶然の連鎖が続いただけなのだ。

そこに他意はない、と、イルを誘い甘味処へと向かいながら真田は一人、強く思うのだった。










《06/15 思考はそれぞれ、嗜好もそれぞれ》










そう言えば、以前にイルと二人、ラーメン屋に寄って帰ったことがある。

ふと思い出したその記憶を思い起こせば、あの時も確か偶然今日と似た状況が訪れてのことだった。

あの時は特に何ということもなく普通に会話を交わせたはずだが、何故だろう、今日はどことなく気まずい空気を感じる。誘う時にしてみても前回のように何の気なしにとうわけにはいかず、妙に緊張してしまったし。

それが何故かはわからないが、とにかくいつまでもこうして黙り込んでいるわけにもいかなくて。何とか話題を探そうと思案するも、こういう時に限っていい話題というものは思い浮かんでくれないようだ。

頭をよぎるのはどうということもない当たり障りのない言葉。それを口にしたところで会話など続きそうもないことくらいわかりきっているが、他に話題が思い付かないのだから仕方がない。

……というよりも、うまく思考を巡らすだけの余裕も、何故か持てずにいたのだ。

それを真田が自覚しているかと言えば怪しいものだが、とにかくその当たり障りのない話題を彼が口にしかけたその時。極自然とイルの方から話が切り出される。


「あの、真田先輩って甘いものが好きなんですか?」
「甘いもの?」
「? 好きだからここに来たんじゃないんですか?」


思わず問い返してしまったが、なるほど、言われてみれば確かに納得できる疑問だ。

どうやら思考の回転がまだ鈍いらしい。

きょとんと不思議そうに小首を傾げるイルに、真田は慌てて取り繕うように答えを紡いだ。


「あ、いや、ホットケーキとかなら好きなんだが、甘いものはそんなに得意じゃない」
「ホットケーキ、好きなんですか」
「! わ、悪かったな、子供っぽくて」
「悪いなんて言ってませんよ。別に子供っぽいとも思いませんし」


イルに反芻され勘違いをしてしまった真田に、それでもイルは冷静に返す。確かに彼女の言葉に間違いはないので、真田はバツ悪く口を噤んだ。

やはり今日はどうも調子が悪い。

内心で溜息を吐く真田に、それとは気付いていないだろうイルが先程のことを特に気にした様子もなく、再び不思議そうに首を傾げる。


「ならどうして、はがくれにしなかったんです?」


わざわざ苦手な甘味にせずとも、通い慣れたラーメン屋で構わなかったのでは。またも正当な疑問をぶつけられ、真田は答えに窮した。

これでイルがわかっていて訊いているなら相当質が悪いものだが、生憎彼女は全く察しもしないらしい。少し前にイルに合わせて真田が注文した品を思い返し、食べられますか? などと真摯に案じてきた。




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