一足早く
本日土曜日。
多くの活動が休止を取るこの日は、生徒会にしても例外ではなく。図書室で調べものでもしようかと思案しつつ職員室前の廊下にいた桐条の耳に、その声は嬉々と響いた。
「きっりじょー先輩! 一緒に遊びましょう!」
《06/13 一足早く》
大多数の生徒に敬遠されている自覚はある。
だがそれを今まで特に苦にしたことはなかった。
だから、というのも変な話かもしれないが、まさか校内でこんなにも気さくに話しかけてくる生徒がいるとは思わず、桐条は思わず軽く目を見開いた。
まあ、長い付き合いである真田は別として、なのだが。
とにかく僅か驚いたまま呼ばれた方へと振り向けば、ノースリーブ型の白いパーカーを制服のブラウスの上から纏った、全体的に白いイメージを受ける少女、イルが笑みを浮かべてこちらへと向かってくるところだった。
長袖の次はノースリーブ型の白いパーカー。どうしても白いパーカーを着たいのか、はたまたそれが好みなのかはわからないが、どのみちやはり髪色と併せ、イルは白い少女を通すようだ。
本人が意識しているかは不明だが。
とにかく、彼女は笑みを崩さぬまま桐条の傍へと寄ると、桐条を見上げ弾む声音で誘いを口にする。
「桐条先輩、この後一緒に遊びに行きましょう!」
堂々と。他の生徒が敬遠し遠巻きにする桐条に屈託なく笑いかけ、更に気後れする様子もなくそれこそ普通に遊びに誘う。
なかなかに多忙の身である桐条は、それ故に同年代の者と気軽に遊びに出るなどそんな機会はなく。真っ直ぐな笑顔に戸惑いながらもイルから僅かに視線を逸らした。
「あ、いや、私は……」
「この間のお詫びも兼ねてって思ったんですけど……って、何か予定がありました?」
桐条が断りの言葉を口にしようとしたのと同時、イルの口から紡がれたそれはお詫びという言葉。それに遮られるような形になってしまったが、桐条が何かを言いかけたことには気付いたらしく、きょとんと首を傾げるイルに桐条の方も小首を傾げる。
「……詫び?」
「あ、はい。ちょっと前に心配かけるようなことしちゃったから、そのお詫びです」
何のことだと問えばすぐに返るその答え。心配と言われて思い出すのは、二年生組が怨霊騒ぎの調査に出かけたあの夜のこと。
帰宅した面々に話を聞けば、調査途中にイルが男に殴られたというではないか。
原因云々はこの際置いておくにしても、殴られた当の本人がその日何故か帰宅して来なかった。
そうなればもちろん、心配するのは当たり前。
調査の仕方までをも指示したわけではなかったが、だからといってそれを全て任せた……というよりも押し付けてしまったとさえ言えることもまた事実。後ろめたさがなかったわけではない。
それも相成り桐条としての力までをも駆使しようとしたのだが、すぐさま寮生総出で止められたことは桐条の記憶にもまだ新しい。
それを思い返し、しかし桐条は頑なに首を振った。
「いや。それならもう済んでいる。いつまでも気にしなくていい」
詫びと礼なら数日前に既に受けている。気にしなくていい、は、学習しなくていいとは同義にならないが、そこまでくどくは言わずともイルもわかっているだろう……と思う。
そう判断しての桐条の言葉にイルはきょとんと目を瞬かせ。それから緩く笑みを浮かべた。
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