疑念、疑惑、オンパレード



事情と状況の説明を受けた山岸風花は、自らS.E.E.Sへの参入を決め、仲間入りを果たした。

先輩達に強引に押し切られたのではと案じ不服を露にする岳羽のそれは、他からすれば杞憂に思える。と、いうよりも、彼女は若干桐条を疑いすぎる傾向にあるからだ。
確かに桐条が全て山岸の意志や感情を優先しているかと言われれば断言できないが、だからと言ってこればかりは山岸の態度を見れば判然としたものだろう。

強要はされていない、と。

とにかく、どのみちこれは決定事項。大型シャドウは満月に現れるという法則がありそうだと今夜の会議で判断できた今、より慎重に準備も必要だから本格的な参入はまた後でということになり、山岸は一旦家へと帰ることに決まる。
そんな彼女を、桐条と真田が送っていくことになった。










《06/11 疑念、疑惑、オンパレード》










送ってくれるとの厚意はありがたいが、それにしても校内で有名な先輩方二人に囲われれば、山岸でなくとも緊張するだろう。
それでも今後についてやシャドウという存在について、そして山岸が持ち得る能力についてを道中の話題とされ、それをきちんと聞き入れることに集中した分緊張を忘れられただけまだマシか。

まあそうは言っても緊張するものはしてしまうのだし、それを完全に拭い去るのは難しい話だったが。

とにかく、必要な話を聞くだけで帰路は終わりを迎え、自宅が見えてきたところでもう大丈夫だと別れを告げようとした山岸は、ふとあることを思い出し、これだけは聞いておかねばと控えめに桐条に呼びかけた。


「あ、あの……」
「ん?」
「その……イルちゃんのこと、なんですけど……」


僅かばかり言い出しにくそうに。口にされたその名に疑問符を浮かべたのは真田だけ。
その名を耳にしただけですぐさま察してくれたらしい桐条が、山岸を連れて真田から少し距離を取る。

何なんだと問う真田に少し待っているようにとだけ告げると、彼には聞こえないよう桐条は山岸との話を再開させた。


「イルのこと、と言ったな。それはもしかして、彼女の気配のことか?」


少しばかりトーンを落とし問われたそれに、山岸の目が見開かれる。


「やっぱり……。先輩も気付いていたんですね」


山岸の方がその能力は上だと真田は言っていたが、それでも桐条にも後方支援のための能力が備わっていることは事実で。
気配の察知能力も、持ち得ていた。

だからこその山岸からのやはりという言葉に軽く頷き、桐条は僅か視線を伏せる。


「イルの気配、か……。山岸、今はまだこのことは皆には伏せておいてくれないか?」
「え? あ、はい、それは構いませんけど……」
「すまないな。……彼女には私達に対する敵対心はないようだし、それに彼女の力に助けられている面も少なくはない」


敵対心がない、というよりも梓董を守るという意志の強さに偽りがないといった方が正しいか。

それに事実、この間の満月時には岳羽と二人、確かに桐条はイルに助けられている。……あの状況が何がどうなって出来上がったものかは、未だもって不明なのだが。

山岸にしてもそうだ。
実際に助けてくれたのは梓董達であったにしろ、あの反応がイルのものだったと知った今、あの日以前に何回も一人で山岸を探し回ってくれていたのはイルだったのだと知れたわけで。
助けようとしてくれていたことは、事実。……まあ一人でタルタロスに来ていたことは皆に秘密にしておきたいようだったので、それを山岸が皆に露見させることはしなかったが。

桐条はふと顔を上げると、小さく笑みを浮かべて山岸を見やる。


「いつか本人から言い出すだろう。不都合があれば調査も考えるが、今はとりあえずその時を待とうと思う」
「……そうですね」


いつか。
話してくれるその日が来るか否かはわからないが、それでも。

彼女がS.E.E.Sの一員であることには変わりないから。

今はただ待とう、と。山岸と桐条は二人で顔を見合わせ、頷き合った。









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