疲労回復には



「あー、労いっていうか……いやそんな大仰なことじゃないんだけどさ、お疲れさま的な意味で作ったんだけど」


お疲れさま……。
その言葉が遣われる先はおそらく……いや、まず間違いなくあの大型シャドウの撃退に対して、だろう。


「ほら、あたし今回何もしてないから、せめてと思って」
「何言ってるの、イル。それを言うなら私の方が何もしてないって。イルは私と桐条先輩を助けてくれたじゃない」


ケーキを食べる手を一時休め、岳羽が口を挟む。
何がどうなってかはわからないが、岳羽からもイルからもこの間の険悪な雰囲気はもう感じられない。

……食べ物効果、だろうか。

切り替えの早い女子に嘆息し、梓董はふと思い出した。

助けた、と、そう告げる岳羽の言葉に思い返すあの時の光景。それは岳羽と桐条を庇うようにシャドウと対峙していたイルの姿。

まるで静止画のようなその光景を脳裏に甦らせ思うことは、彼女は何故、シャドウからの攻撃を受けていなかったのかということ。


「……イル、あの時何をしたんだ?」
「何、って?」
「シャドウ。イルに攻撃してなかっただろ?」


梓董が疑念を口にすれば、あ、と小さな声を上げ、同じくあの時の光景を思い出したらしい岳羽が続けて問う。


「私もそれ気になった! イル、知らない内にどこか行っちゃってて、その間にあのシャドウに襲われたんだけど……。イルがああやってシャドウの前に出てきた途端、シャドウの攻撃が止んだの。すっかり聞きそびれちゃったけど、イル、あの時本当に何やったの?」


あの時あの場にいた岳羽が、不在だった梓董と伊織のために細かな説明をしてくれ。それは梓董にしてみれば状況把握に役立つ話だったが、イルにとってはそうではなかったらしく、彼女は困った様子で視線を迷わせる。


「えー……? そう言われてもなあ……。あの時はあたしも必死だったし、気迫勝ち、とか?」
「マジで!? 気迫でシャドウ怯ませるとかどんだけだよ、イル」
「ねー。我ながら凄かったと思う」


そんなわけがあるか。




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