疲労回復には



昨夜、というよりも今日の明朝に当たるのか。とにかく大型シャドウを相手取っての戦闘は、思いの外疲労を残してくれたようで。
それでも放課後にはきちんと部活に参加してきた辺り、結構タフだと自分でも思う。

そんな梓董の帰宅を出迎えたのは……。

ラウンジに揃った、同級生三人だった。










《6/09 疲労回復には》










「あ、おかえりー」
「おー、戒凪、待ってたぜ!」


正に満面の笑み。
それを浮かべて声をかけてくる岳羽と伊織の姿に、正直なところ早々に部屋に戻りたくはあったのだが、ここは空気を読んで二人の元へと向かうことにする。

ちなみにもう一人の同級生であるイルは、カウンターの奥で何やら作業をしているようだ。


「……ただいま。何? 揃って……」


どこか嬉しそうにも楽しそうにも見える岳羽と伊織の様子に、とりあえず空いているソファに腰掛けながら問いかけた。それが興味あっての問いかけと言えばそうでもないが、まあ社交辞令の一種のようなものだ。

大体、何故か待たれていたようなのだから、このまま素直に部屋に向かわせてもらえるとも思えない。

ひねくれていると捉えられようが、今の梓董には溜まっている疲労の方が気がかりだ。夜はポロニアンモールに出かけられそうにない。

そんなことをぼんやりと考える梓董へと、岳羽と伊織はやはり変わらず楽しそうな嬉しそうな笑みを向けるばかり。
一体何事かと訝しむ梓董だが、二人が答えを紡ぐより先にその答えの方がこちらへと向かってきた。


「お待たせー」


声を弾ませカウンターからこちらへやって来たイルの手に、その答えは乗せられていて。それが皆が囲むテーブルの上に置かれた瞬間、岳羽と伊織から感嘆の声がもれる。


「うっわー、おいしそう!」
「すっげ! これマジでイルが作ったのかよ!?」


目を輝かせて二人が見つめる先には、色違いの筒状のものが二つ並んでいた。

……どう見ても、シフォンケーキにしか見えない。


「ハニーとレモン味にしてみたんだ。それほど甘くはないから甘いの苦手でもいけると思うよ!」


取り皿用の小さな皿とフォークを皆の前に並べ、それからシフォンケーキを順に切り分けていくイルを見やる。
彼女はケーキを切り分け終えると、お好みでとトッピング用に作っておいたらしい生クリームをケーキの隣に並べた。


「いただきます!」


即座にケーキに手を伸ばし美味しそうに顔を綻ばせながら咥内でそれを吟味する岳羽や伊織とは違い、梓董は訝しそうな視線をイルへと馳せる。


「……何、これ」
「? シフォンケーキだけど、一応」
「それは見ればわかる」
「あ、もしかして、戒凪夕食まだだった?」


遅い帰宅だからてっきり夕食を済ませてきたものだと、と続けながら、まだデザートには早かったかな、ごめんねと謝るイルのその勘違いに梓董は小さく息を吐いた。先読みもいいが、それをするならこちらの伝えたい意図を正確に汲み取って欲しいところだ。

それでは先を読む意味がないと思いつつもそこは口にせず、仕方なく梓董ははっきりと疑問を口にする。


「そうじゃない。……何でケーキなんだ?」
「何で、って……」


誰かの誕生日か何かならわからなくもないが、と、そう考える梓董にイルは数度瞬き。それから小さな苦笑を浮かべた。




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