救出作戦始動



「風花……風花……あたし……」


彼女がこの影時間の中で体験した記憶は、この時間を過ぎ去れば彼女の中から消えてしまう。けれどシャドウの声を聞いても無事でいた彼女が、シャドウに囚われるようなことはもうないだろうと真田が告げた。
それは確かに吉報だろう、が。

その利を得ることは同時に、こんなにも必死に森山を助けようとした山岸の姿も、彼女にしたことを真摯に反省し泣いて謝った自分の姿も。
森山は、忘れてしまうということ。

それではあまりに山岸が報われないし、森山にとっても自分のためにならないのではないか。やるせない表情で岳羽が小さく不服を告げれば、今の山岸と森山の姿を見やった桐条が、僅かに表情を緩めた。


「……そうなっても、案外、大丈夫かも知れない」


例え、記憶からは消えてしまっても。

そう紡ぐ桐条の視線の先では、気を失うように眠る山岸の傍で、彼女の手をしっかりと握り締めながら涙を零す森山の姿があった。


「ごめん……ごめんね……風花、ごめんね……」


彼女は自分がどうすべきだったのか、そしてこれからどうするべきなのか、きっともうわかっている。

だからきっと。
きっと、影時間が解けた後でも彼女にはわかるはずだ。

記憶などではない、もっと別の場所で。

彼女と山岸ならきっと、大丈夫。


「ごめんなさい……。ううっ……わああぁぁ……」


森山の声がエントランスに響く中、その場にいた皆が、そう感じていた。














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