救出作戦始動
今回の大型シャドウは、どうやら一定時間ごとに自らの弱点を変ずる特性を持っていたらしい。だからこそ、桐条は攻撃の効かない相手だと思ったのだろう。
とにかく蓋を開けてみれば攻撃は全く効かないわけではなく、アナライズさえ的確に行われれば弱点を突くことなど容易い相手で。支援に特化した山岸の能力が大きく貢献した今回の戦闘は、無傷とまではさすがにいかずとも、何とか無事に勝利という形を収めることができた。
「っ、戒凪、だいじょうぶ!? 痛いとことかない!?」
戦闘が終了し、シャドウが二体とも消えたその瞬間。真っ先に動き出したイルが梓董の元へと駆け寄る。
どうやら桐条と岳羽は治療が済んだらしい。
イルはきちんと梓董に言われたことを守り、今まで二人の傍を離れることなく梓董達を見守ってくれていたのだ。戦闘が終わった途端に堰を切ったようにいつも通り梓董の身を案じ出す彼女は、ここまでよく我慢したとも言えるだろう。
「大丈夫。そっちは?」
「桐条先輩と岳羽さんなら治療したよ。あたしも平気」
平然と答える梓董は本当に怪我を負っている様子もなく。多分自力で回復を済ませたのだろうと思われるが、とにかく無事な姿であることに安堵した様子を見せたイルは、小さく微笑しながら問われた問いかけに答えた。
その言葉に、梓董も内心で安堵する。
「敵……他に、敵は……」
ふと。二人の耳に届いた、何かに追われるような声音に振り向けば。
自らのペルソナを具現化したまま、未だ懸命に索敵を続ける山岸の姿がそこにあった。
「もう心配ない」
必死な様相の彼女を安心させるよう、きっぱりと、けれど優しくそう紡いだのは真田。彼の言葉を受け、山岸のペルソナがようやく送還される。
その一部始終を見ていた森山が、ついていけていないだろう状況に、茫然とした様子で山岸を見やっていた。揺れる瞳からは、困惑や不安や恐怖といった感情が窺えるように思う。
「風……花……あんた……」
「け、怪我は、無い……?」
震える声に呼びかけられて、山岸もそれと同じ震える声で、けれど心から森山を案じる言葉を紡ぐ。
それに森山は僅かながらも自身を取り戻したらしく、小さく頷いて返した。
条件反射のようにも見えなくはないが、事実彼女は目に見えて怪我らしい怪我を負っている様子もないのだから、どちらでも構わないのかもしれない。
「う……うん……」
戸惑い気味にだが頷く森山に、山岸は安堵に表情を緩め。
「良かった……」
一言だけ小さく呟くと、その場に倒れ込んでしまった。
「風花!?」
慌てて彼女の傍へと駆け寄る森山に、桐条から凛とした声がかかる。
「心配ない、疲れが祟っただけだ」
長時間タルタロスの中に閉じ込められていた上、初めてペルソナを召喚し、相手にした初めての敵が大型シャドウだという、まさにハードそのものの体験を成したのだ。今まで倒れずにいたことの方が驚きだろう。
とにかく、今はただ疲労と緊張の糸が切れたとで深い眠りについた山岸に、眠っているだけだと知った森山からも緊張の糸が切れたのだと思われる。彼女は山岸の隣で力なく両手を床についた。
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