救出作戦始動



「……なに……これ……。今までのより……ずっと大きい……しかも……人を……襲ってる……」


彼女のあの素質からか、関知したらしい気配を口に乗せ伝える山岸に、真田の仮説が現実味を帯びる。大型シャドウが、エントランスに待機している三人を襲っている可能性が高い。


「くそッ!!」


小さく悪態を吐きすぐさま駆け出す真田と、いまいち現状を把握できていそうにないながらも緊迫感だけは感じ取ったらしく、その後に続いて駆け出す伊織。
すぐに梓董も二人の後を追うべく山岸を促そうとしたところ。


「あれ、この感じ……。これって……」


驚いた様子で目を見開き呟くその言葉の意味は、梓董にはわからない。が、問うだけの時間も今は惜しかった。


「山岸さん、走れる?」
「え? あ! はい、大丈夫です」


何かに……おそらくエントランスの気配にだろう、意識を向けていた山岸に呼びかければ、彼女は若干慌てた様子で頷き答える。

とにかく今は一刻も早くエントランスに戻らねばならない。

焦る気持ちをポーカーフェイスで抑え込み、梓董は山岸を連れて駆け出した。










ようやく戻ってくることができたエントランスには、巨大な二体のシャドウの姿があり。それぞれ男女のような容貌を持つそれらの前で、桐条と岳羽の両名が膝をついている姿が梓董達を出迎えた。

そこには、そんな二人の眼前、二人とシャドウとの間に二人を庇うようにして立つ……。

イルの、姿もある。

不思議なことに、彼女とシャドウとが睨み合う形のその状況は静止し、共に動く気配を見せない膠着状態となっているようだ。予想に違わず大型シャドウからの襲撃を受けているはずのこの状況下で、場が膠着を見せていることは予想外を通り越し、最早異常だった。

イルが何かをしているようには見えないし、何故シャドウ達は三人を襲わずにいるのだろうか。……いや、少なくとも桐条と岳羽は何らかの攻撃を受けたように見受けられるが。


「美鶴!」
「これは……!?」


地に膝をつく桐条の姿を目に、慌てて彼女の元へと駆け出す真田と、初めて目にする巨大な黒い物体に驚きと困惑を隠せず口元に手をやり目を見開く山岸。

桐条のすぐ傍まで駆け寄り心配そうに膝を折った真田へと、彼女からの忠告がもれる。


「明彦、気をつけろ……。こいつら……普通の攻撃が効かない」


それでは既に攻撃済み、ということか。付け加えるならば更に反撃まで受けたといったところだろう。
桐条の言う、攻撃が効かないというその理由で、おそらく一方的に。

何故か今は攻撃を仕掛けてくる様子はないが、なればこそ今を好機とし、戦闘となった際の対処を早々に模索せねばなるまい。今は下手に動かず様子を見つつその策を考えることが最善だ、と。

冷静に訴える自分も確かにいたのに、梓董の足はそれに反してイルの元へと向かっていた。


「イルっ」
「へ? え、戒凪?」


イルを背に庇うようにして彼女の前に進み出た梓董に、まるで今気付いたと言わんばかりの様子で声を上げるイル。彼女が驚きを露にすると同時、眼前のシャドウ達の雰囲気が変じた。
静止していた空気が、不穏なものを漂わせ出す。

攻撃がくるかと梓董が全身に緊張を走らせたその時。


「ふ……風花……」


聞き覚えのない声。それが、梓董の視界から外れた場所から唐突に聞こえてきた。




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