救出作戦始動



そんな思いを抱く梓董に、ふと思い出した様子で伊織が声を上げた。


「あ、つーかさ! オマエ、ここ来る途中に“声”聞かなかった? えーと、なんつったらいいか……」
「誰……? 人……なの?」
「わ、わ、こ、この声! つか、後ろからか……?」


伊織の言葉を遮って。聞こえてきたその声は、ここに来るまでに何度も桐条からの通信途中に割り込んできたもの。

しかし今度のこれは、今までとは少し違うらしい。

桐条からの通信同様、何かを媒介にしてのものではなく、直接的に届いてきたそれに、声が聞こえてきた方向へと皆で振り返れば。


「あっ……」


一人の女生徒が、こちらの様子を窺うように角から姿を見せ。
目が合うなりすぐさま駆け寄ってきた。

見覚えのないこの女生徒こそが、どうやら探していた山岸風花のようだ。救出に来た旨を伝えると、彼女は安堵から力が抜けたのか、その場で崩れ落ちて喜びを露わにする。

とりあえず諸々の説明は後回しにし、彼女の話を聞いてみたところ、驚くべきことに、彼女はタルタロスに閉じ込められてから今まで、一度もシャドウに見つからなかったらしい。
本人曰わく、居場所が何となくわかったからとのことだが、それに真田は桐条と同じ能力かそれ以上の感知能力を有しているかもしれないと、一人ごちていた。


「……だけど、本当に人に会えて良かった……。途中で不思議な気配も感じたけど、判断がつかなくて逃げてしまったから……」
「不思議な気配?」


何のことだと眉根を寄せる真田と梓董に、告げた本人である山岸もわからないと首を振るばかり。

シャドウとも人とも違う気配らしいそれの正体は不明だし、確かめる術もないが、とにかく山岸がこうして無事だったことが十二分の収穫だ。
あとはこのことをエントランスに残っている者達に伝えねば。

戻る場所を探そうと皆が歩み出すその直前。思い出した様子で、真田があるものを山岸へと差し出した。


「これを持っていてくれ」


山岸に手渡されたそれは、銃を模した形をしたペルソナを喚び出すための道具、召喚器。
真田は彼女にペルソナ能力者としての素質を見出したらしい。

……まあ元より、体が弱いだなどという話が出なければ勧誘するつもりだった相手なのだ、彼女の分の召喚器を念のため用意していてもおかしくはないだろう。

とは言え、事情を何も知らない者にしてみれば、それはどこからどう見ても銃刀法に違反する産物でしかなく。当然の如く驚き困惑する山岸に、真田はそれを実弾の出ない御守りのようなものだと伝えた。

その説明に納得したか否かは不明だが、とりあえず山岸はそれを受け取ってくれ。今度こそエントランスへ戻ろうと皆で歩き出す。

その途中、外の景色が見渡せる作りをした通路を通りかかり、何とはなしにふとそちらへと視線を向ければ。大きな……それこそすぐ傍にまで迫り来るのではとすら思わせるほどの迫力を放つ大きな丸い月が、自身で光を放っているかのように錯覚させるほどに強く眩く暗闇の中輝いていた。

異様なまでのその光景は異質で。

不気味にすら思えるそれに、梓董と同じように視線を向けた伊織が目を見開く。


「月、デカッ!! 明るッ!! ……ってか、こんなギラギラしてたっけかぁ?」


伊織の反応に促されるように真田も月へと視線を馳せ、彼は思い出したように他の皆に教えてくれた。


「月の満ち欠けは、シャドウの調子に影響するって説がある。もっとも、人間も同じだがな」


月が満ちるその時に、自身の力を最も発揮できる。




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