救出作戦始動



鍵置き場の探索を諦めたらしい真田が軽く息を吐きながらそう告げる。が、彼の視線は別に置かれたその鍵には向けられていなかったように思え、もしかしたらととりあえず手を伸ばしてみた。

確認すれば、取り付けられたタグに記された、体育館の文字。


「……先輩、今度眼科にでも行ってきたらどうですか?」
「なっ……! た、たまたま目に入らなかっただけだ! 見つかったんだからいいだろ! さっさと行くぞ!」


梓董の手の内を覗き込み、彼と共にその鍵の使用先を認めたイルが憐れむような視線を真田へと向け。
それに恥じたか、真田は慌てた様子でまくし立てると一人で先に歩き出してしまう。

梓董はその背を目に小さく息を吐き、イルを連れて後に続いた。









気のせいでなければ、校舎に侵入してたかだか数十分の間にやけに疲労が溜まったように思う。

肉体的に、ではなく、精神的に。

とにかく目的の物は手に入れたわけだし、合流地点である玄関ホールを目指して進めば、そこには既に校務員室に向かった面々が揃っていて。鍵を無事入手した旨を彼女らに伝えたところ、すぐに次の段階へと話が進んだ。


「よし、改めてチームを2つに分ける。3人が、このままタルタロスへ突入。私とあと2人が外でスタンバイだ。影時間に入ったら、私が位置を割り出す」


今回の侵入方法はいつもとは違う特殊なやり方となる。だからこそ、全員が全員それを実行するにはリスクが大きすぎた。
万が一に備え、通常通りに侵入するメンバーもいた方がいいと判断するのは当然だろう。そしてそちらにナビとサポートを勤める桐条が回ることは必然のようなもので。

他のメンバーの誰を突入班にし、誰が桐条と共にスタンバイに回るかを全員で話し合う。

とはいえ、それはそう時間を要すものではなく。戦闘、探索を常からリーダーとしてこなす梓董はもちろん突入班として、他はすぐさま立候補した真田と。

同様に立候補した岳羽を押しのけ、前回の大型シャドウ戦でミスした汚名をバンカイしたいと意気込む伊織とが、突入班に決まった。

汚名をバンカイしようとする辺り、伊織の成績の良さが窺える。

と、それはいいとして、その決定に不服そうな人物が一人、眉根を寄せて俯いていた。


「なんだ、岳羽、イルや美鶴と一緒は苦手か?」
「い、いや、そんな事ないですよ」


気付いたらしい真田が小首を傾げて問えば、慌てた様子で首を振り否定する岳羽。元より彼女は桐条のことを苦手視する傾向がしばしば見受けられたし、イルとは先日のことがある。

梓董にしてみれば予想できなくもなかった反応だが、それよりも予想外だったのは岳羽のことではなくイルの反応。てっきりすぐにでも梓董と同じ突入班を選ぶとばかり思っていた彼女が、意外にもすんなりこの決定を受け入れているようで。

梓董を守る、が、口癖のような彼女が、その梓董と離れて行動することを享受するとは思わなかった。

……自分で言うのも何ではあるが。


「……イルは、それでいいのか?」


思わず口をついてしまった疑念に、イルはきょとんと目を瞬かせ。次いで、困ったように苦笑を浮かべる。




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