救出作戦始動



笑みを浮かべるイルに見上げられ、照れくさいのか、真田はぎこちなく頭を掻きつつ彼女から視線を逸らした。
その例えようのない空気は、決して甘いものではないように思えるが……。

何となく、不愉快だ。

何がどう気に障るのかと訊かれたら答えに窮すのだが、とにかく不快には変わりなく。梓董は眉根を寄せたまま、二人から視線を逸らした。


「……急ごう」


一応一言声をかけて。けれど返事を待つことはなく、さっさと歩き出す。

子供じみた態度だ、と、冷静に咎める自分も確かにいるが、それにはあえて蓋をして。気付かぬふりを通す梓董の後を、慌てた様子の声と足音が二つ、追いかけた。










静まり返った校舎内。
他の場所の例に漏れず、当初の目的地である職員室もまた、人気が失せ静まり返っていた。

学校という舞台が既に怪談話の定番というだけあり、本人が認めるか否かは別としても、岳羽などならこの暗闇と静けさとに終始怯えていそうなものだが、生憎こちらのメンバーに怪談を苦手とする者はいないらしく。
職員室に踏み入るなり、さっさと目的の鍵入れを見つけ出して中を漁る。

ただ、全員で鍵入れの中を改めるには場所が狭く、だからこそいち早く行動を起こした真田が代表して中から鍵を取り出すことになった。……わけだが。


「あったぞ、“体育倉庫”の鍵だ!」


…………。

ああ、おそらく。

山岸を早く救出したい一心で、話半分に作戦を聞いていたのだろう。
もしくはちょっと頭が足りないのか、良く言えば天然か。

とにかく。


「何聞いてるんですか」


呆れて溜息を吐いたのは梓董とイル、二人同時。直後にその内心を口に乗せたのは、イルの方だった。


「なっ……どういう意味だ!?」


どうもこうもそのままの意味以上の意味などない。

先程とは打って変わったイルの態度は、二年生の教室での真田に対する態度に戻っていて。放っておくと二人でまた口論……というレベルにも満たない言い合いを始めそうな雰囲気を醸し出していた。
実際にそれを今始められたら時間の浪費になるし、それに……。

また二人で会話を成り立たせられたらと思うと、何となく腹が立つ。

それが二人の世界を作る、などと甘ったるい内容ではないにしても、何故か胸の奥からもやもやと不快感が押し寄せてくるのだ。
その理由や原因は深く考えないようにして、気付かないふりを通した梓董はさらりと何気ないいつもの態度で口を挟む。


「体育館の鍵を探してるんです」
「た、“体育館”だと? ……そ、そうか」


いつものポーカーフェイスで。感情の抑揚に乏しい、静かな梓董の口調に、つられるように冷静さを取り戻したらしい真田がうなだれた。

梓董がわざわざそんな冗談を言うとは思えないし、体育倉庫の鍵への否定はイルも一緒に行ったのだ。多数決、というわけではないが、それでも間違えていたのは自分の方だと悟ってくれたのだろう。

とりあえず再び鍵置き場をひっくり返し始めた真田だが、梓董はその鍵置き場の隣に何やら鍵らしきものが一つ、別に置かれていることに気が付いた。
暗くてよく見えないが……。


「ダメだ、ここには無い。ということは、美鶴たちの行ったほうにあるってことだな」




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