救出作戦始動



当然夜間は校内の施錠は全てしっかりとなされているわけだが、そこは機転を利かせた伊織がうまくやってくれ。昼間の内に密かに鍵を開けておいてくれたという場所から中へと潜入し、皆は一度2―Fのクラスへと集まった。

理由は、落ち着いて今後の話をするため、だ。

このクラスを選んだのは、二年生組が普段利用し慣れているからだろう……と、思う。
とりあえずそこで話をした結果、まずは体育館の鍵を入手することが先決となり。それは校務員室か職員室のどちらかにあるだろうということで、一度二手に別れて探し、その後玄関ホールで待ち合わせることに決まった。

そのための組み分けだが……。


「“職員室”のガサ入れか……。テストの問題とかあるかも? ウヒヒ……」


黙っていればいいものを、あえて口に出すのは抜けているからか耐えきれなかったからなのか。邪に笑みを浮かべて呟く伊織のその言葉を、当然聞き逃すはずもない人物が約一名。
追記するなればそういった面での最恐の一名だったりもする。


「私の目の前で不正の算段か? 事実なら“処刑”だな……」


生徒会長、桐条美鶴。

真面目な彼女が背後に背負う凍てつく空気を感じ取り、伊織の顔から見る間に血の気が引いてゆく。身の危険を機敏に感じ取ったのだろう、彼は慌てた様子で素早く首を振って愛想笑いを浮かべてみせた。

口元がひきつっている。


「う、嘘に決まってるじゃないスか。嫌だなー、もー」
「……なら、伊織は私と“校務員室”だな。梓董、君は職員室だ。連れて行く仲間を選んでくれ」


信用度、零。
見定めるように目を細めた桐条が、口元にだけ笑みを刻む。欠片も笑んでいない氷の双眸に射竦められ、伊織は全身から何か変な汗を流していた。

下らない、と、小さく息を吐き素知らぬふりを決め込んだ梓董は、桐条に促されるまま自身と共に職員室へと向かうメンバーを見定めることにする。


「……じゃあ、イルと真田先輩で」
「へ? あ、はーい! やったね、戒凪と一緒だー!」
「浮き立つな。全く……お前はもう少し緊張感を持てないのか」
「真田先輩、おかーさんみたい」
「誰がおかーさんだ!?」


……失敗したかもしれない。

単に、イルを伊織や岳羽と共に組ませない方がいいかもしれないと思って決めた組み合わせだったが、どうやらイルと真田は別の意味で組み合わせてはいけなかったようだ。
ある意味仲が良くも見えなくはないが、潜入しているという自覚がなさそうなのはどっちもどっちだろう。

まだ作戦はこれからだというのに、先行きに不安を感じた。

杞憂であればいいと、強く願う。


「分かった、では岳羽も“校務員室”だ。玄関ホールで落ち合おう」


特に何を咎めるでもなく、さらりと承諾を済ませた桐条は他の二人を連れさっさと教室を出て行ってしまう。この程度ならスルーしても構わないと判断されたのだろうか。

できれば自分もそうしたいと思いながらも、残された梓董は傍で繰り広げられる不毛な言い合いに溜息をもらし、一人冷静に二人を見据えた。


「……もう、行くから。騒ぐなら待機でよろしく」


言うだけ言って、くるりと反転。付き合ってられないと一人で歩き出す梓董の様子に一瞬呆けたイルと真田だが。


「え、ちょ、待ってよ、戒凪ー!」
「お、おい、梓董! 一人で先に行くな!」


一時休戦。
揃って慌てて梓董の背を追いかけるのであった。









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