絶賛過保護増殖中



まだ怒られる心持ちだったのだろう、それ故に急に向けられる感情が変わったため戸惑ったといったところか。

女の子が殴られたとあれば、いくら多方面に鈍い真田とて心配くらいする。意外そうな表情を向けられるなど心外だ。


「怪我人にまで長々説教するほど俺も美鶴も狭量じゃない。怪我をした時くらいすぐに帰ってきてきちんと休め」


本当は、昨夜の内に顔を見たらすぐに休ませられたかわからないが、それは最早仮定でしか成り得ない。あえて言うことでもないだろう。

イルは真田の言葉を耳に僅かに視線を迷わせた後、申し訳なさそうに目を伏せた。


「……すみません、心配かけて。もう全然だいじょうぶです!」


謝った後にいつもの笑みを浮かべて何故か力こぶを作ってみせるポーズを取る彼女に、思わず苦笑がもれる。
元気であることがイコールそのポーズとは随分安直ではないか。というよりも若干古めかしい空気を感じるのは気のせいだろうか。

まあとにかく、元気に笑みを浮かべる彼女の様子には安堵する。

やはり彼女は笑っていた方が似合っている気がした。大抵いつも笑みを浮かべているからだろうか。


「じゃあ後は美鶴だな」
「桐条先輩がどうかしたんですか?」


真田の言葉に首を傾げるイル。不思議そうな彼女に、真田からもれるのは小さな苦笑。

その脳裏に浮かぶ光景は昨夜のもので、当然不在だったイルにはわかり得るものではない。だからこそ、というわけでもないが簡潔にその時のことを話してやった。


「あいつ、桐条の名前を使ってでもお前を捜し出す気でいたからな」
「ええっ!?」


そこまで大事になってたんですか、と、驚き半分困惑半分に呟くイルに、あながち誇張でもないため冗談だと告げて安心させてやることはできない。
ただそれはそれだけ桐条もイルを心配していたことの表れでもあり。


「美鶴ともちゃんと話をしろよ。心配してたからな」


そう教えれば、すぐに返ってくる肯定の頷き。真田の話でどれだけ桐条も心配してくれたのか理解したのだろう。
イルは少し照れくさそうに、けれどどこか嬉しそうにも見える笑みを浮かべてみせた。


「あたし、桐条先輩のところに行ってきます!」


善は急げ、といったところか。
その言葉そのものの行動に移ろうとするイルに頷いてみせれば、彼女は小さく頭を下げて立ち上がり、駆け出した。

……いや、駆け出そうとして、ふと何かに気付いた様子で一旦足を止め、真田を振り仰ぐ。

どうしたのかと怪訝に思う真田に、イルはいつものあの笑顔を向け。




「心配してくれて、ありがとうございました!」




弾む声音で告げもう一度頭を下げて、今度こそ駆け出す。

桐条の私室に向かって。

そんな彼女の嵐のような行動に、残された真田はしばらく彼女の去っていった方向を見つめて、何故かその視線を逸らせずにいたのだった。









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