絶賛過保護増殖中



夕方。休日故に外へと出ていた寮生達がまばらに帰宅を始める時分。

そんな時間帯にどこか怯えたような、中を窺うような態度を取りつつも例に漏れずに帰宅した少女の姿を認め、ラウンジのソファに腰掛けていた真田が声をかける。


「イル、話がある」


びくり。
見つかった、と、さも失敗したとでも言いたいかのように、白い少女が思い切り肩を跳ねさせる様子に気付きつつも無視をして。



……あたふたと逃げようとするイルを引き摺るように連れ、真田は彼女と共に階段を上って行った。










《6/07 絶賛過保護増殖中》










とりあえず他の寮生達に気を遣い、今はまだ誰も上ってこない二階の自動販売機前のソファに腰を掛ける。先に座った真田に促され、イルも僅か躊躇いつつ言われるままに腰を下ろした。

真田から、やや距離を取って。

そうは言ってもこんな人気のない空間に男女が一組。邪推しようものならいくらでもできそうなものだ。が、生憎この二人の間にはその要因と成りうる甘い空気など更々流れておらず。

腕を組み眉根を寄せる真田の視線が向けられる先で、イルが居心地悪そうに頭を下げ視線を迷わせていた。これから真田がしようとする話の内容を理解しているからだろうその態度に、思わず溜息がもれる。

今になって殊勝な態度を取るくらいならば、最初から怒られるようなことをしなければいいのに。

とは思いつつも、最早怒る気は消え失せてしまっているのだが。
昨夜のことの顛末ならば他の二年生組に聞いたし、その際注意は彼らにきちんと行った。主犯は岳羽のようだが、一緒に行った以上は連帯責任になる。

その考えは桐条にしても同じで、咎めは全員同様に行った。
だからこそイルにもそれをせねばならないわけで。加えるならば彼女は不良に殴られたとも聞いている。また無茶をしたことにも注意は必要だが、彼女はそれを避けようとしたのか昨夜は寮に帰宅せず、それどころか朝から真田達に会わないよう避けていたようで。

今になってようやく捕まえることができたわけだが、時間を置かれたことが癪ではあるがイルに利を成したらしい。
そこに昨夜は怒るつもりでいた気持ちが、今は大分和らいでしまっていた理由があった。

とは言っても、お咎めなしというわけにはいかないのだが。


「……イル」


びくり。
小さく名を呼んだだけだというのに大袈裟なまでに跳ねた小さな肩。恐る恐るといった様子で顔を上げた彼女に、内心で苦笑する。


「言いたいことはわかってるようだな」


問うと言うよりも確信しつつ確認するような感覚で。紡がれた真田の言葉に、イルは再び俯き小さく頷く。


「お前達に情報収集を押し付けた俺達にも非はあるだろうが、だからってあんな場所まで行くことには感心しない」
「……はい」


内心はわからないが、とにかく彼女に言い訳をする気はないようだ。責めようと思えば責められる先は持ち合わせていようが、それをする気はないらしい。

感心する、とまではいかずとも、それに対して多少の評価はできる。

反省もきちんとしているようだし、と、小さく息を吐いてから真田は続けた。


「……怪我は?」
「へ?」
「へ、じゃない。殴られたんだろう? まだ痛かったり痕が残ったりしてないか?」


案じるように問うが、当の本人から返る反応はきょとんと首を傾げるという不思議そうなもので。




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