若干一名初対面



だからと言って同情したわけではないだろうが、話してくれる気にはなったらしくきちんとこちらに体を向け直してくれた。


「……フン。知りたい話ってのは何だ。例の“怪談”とやらか?」
「そうですけど……。え、なんで分かったんですか?」
「ウワサだ。病院送りになった女どもが、その辺にタムロって毎日話してた。“山岸”って同級生を色々イジってるってな」


察しよく話を進めてくれる荒垣に岳羽が驚いた様子で僅かに目を見開く。そんな彼女の言葉に、荒垣はあくまで変わらぬ態度でさらりと返した。

……山岸。

どこかで聞いた名前のような気がするが、と、頭上に疑問符を浮かべるような表情で首を傾げる梓董は、隣でイルも同じ表情を浮かべていたことには気付かない。
周囲への関心が低いことに関しては、この二人、案外似ているのかもしれないと思える。

とにかく、その山岸なる人物への関心が薄いのは二人だけのようで。きちんと覚えていた……というのも女性だからという理由な気がしてならないが、とにかく伊織が不快と心配とに僅かに眉根を寄せた。


「山岸って……E組の“山岸風花”? あいつ、イジメに遭ってたのか……」
「おかげで騒がれてるぜ……。犯人は、その山岸の怨霊だ、とかな」


あくまで主張を止めないのか、怨霊説。

掘り返されたその説は現実感にはやはり薄く。梓董にとってもイルにとっても下らない話だとしか思えないそれに、岳羽が身を乗り出して詳細を問う。

まあ、怨霊説は消えたと思っていたのだから、掘り返されて不安に思っても不思議ではないが。そうでなくとも、火のないところに煙はたたないわけで。

気にならない話ではない。

どういうことかと問う岳羽の問いに、荒垣は若干驚いた様子を見せながらも答えてくれた。


「お前ら……知らねえのか? その山岸ってやつ、死んでるかもって。もう一週間かそこら、家にも戻ってねえって話だ」


それで怨霊の怪談話が首を擡げたのか。

似たような噂があったからこそ、それが瞬く間に学校中に広まったのだと思われる。などと冷静に考えている場合ではなく、怨霊云々は放置するとしても、さすがに死んでいるかもしれないなどという話を聞き捨てることはできない。

山岸風花は病気だと真田が言っていたようだが、これでは行方不明ということではないか。
怨霊説まで飛び出す始末だ、どこかで情報がすり替わってしまっているのか、錯雑してしまっているのか判断し難い。

……まさか故意に流言を流されたわけではないだろうが……。


「これ、もう“怪談”じゃないよ……。E組の担任って“江古田”でしょ? アイツ、この事知ってんのかな……」
「そうか、アキのやつ……あの日出来なかった事の“代わり”ってか? ったく……過去を切れねえのはどっちだってんだ……」


不安そうに眉根を寄せての岳羽の呟きに、ふと何かを思い出した様子の荒垣の呟きが重なる。
岳羽の呟きとは関わりない、苦々しそうに吐かれた言葉の示すものが何か、この場に居合わせる彼以外の誰一人にもわからなかったが、不思議がる面々に荒垣が説明をすることはなかった。


「なんでもねえ……。知ってんのは、そんだけだ。……もういいか?」


気になる全てを答えてはくれなくとも、彼は充分に情報をくれたのだ。文句を言うなど筋違いだろう。

それに、あの呟きには下手に立ち入って聞いていいような響きは含まれていなかった。




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