若干一名初対面



何て定番的な三下の台詞。
まさか現実に生でその台詞を聞く機会があろうとは思っていなかったが、とにかく男達は闖入者の身元を判断できたことで良しとしたのだろう。すごすごと立ち去る様子は荒垣というらしい闖入者の男性が見逃してくれているが故に許される姿だと思うと、何とも滑稽極まりないが。
これ以上彼らに構っていても時間の無駄でしかなさそうであるため、無視して見過ごす。
女達も最後まで耳障りな笑い声を絶やさずに男達と共に去っていった。

それを見送るよりも、荒垣の視線が向けられたのはイルの方。腹部を押さえてうずくまる彼女の姿に、僅かに眉根が寄せられる。


「……大丈夫か?」


どうやら一部始終を見ていたらしい。とは言ってもイルの行動は唐突だったのだから、例え助けようとしてくれていたとしても間に合わなかっただろうが。

僅かに含まれる案じられるような響きに、同じ感情を宿した双眸で梓董が再びイルへと目を向ければ、彼女はいつもと変わらぬ様子で平然と立ち上がった。


「あ、だいじょうぶです。ありがとうございます」


その顔に、先程のような無理をしている感はなく。しかしだからといって無理をしていないとは限らないため眉根を寄せて訝しむ梓董にも、イルは笑ってだいじょうぶとありがとうを伝えた。

……何も、していないのに。

そう思いますます眉間の皺を深める梓董のことなど気付かずに、伊織も慌ててイルの傍まで近寄る。


「なあ、本当に大丈夫かよ!? オレの代わりに殴られたんだろ!? 本当ごめん!」
「いやいや。伊織くんは何も悪くないんだから謝らないで。あたしが勝手にやったことだし。それに、本当に全然平気だから」


ね、と笑いかけるイルの笑顔に、まだ僅かに心配そうな色を瞳に宿したまま、それでも伊織は小さくそうかと頷いた。

その様子……いや、正確には梓董や伊織の顔を見て、荒垣が何かを思い出した様子でぽつりと呟く。


「その顔……お前ら、アキの病室に居た……」


やはりそうか。どうやら思い違いではなかったようだと梓董が内心で思う傍らで、イルが不思議そうに目を瞬かせる。
そういえばあの時うまい具合に彼女は不在だったなと、どこか遠く思った。

そんな思考を梓董が一人巡らせているその間に、荒垣の表情が一転して険しく歪められる。


「……バカ野郎が! 帰れ。お前らの来るトコじゃねえ」


正論。危機感が足りなすぎたと身を以て思い知らされた四人に、はっきりと事実を突き付け立ち去ろうとする荒垣を、岳羽が慌てて呼び止めた。
この場所で話が通じそうな相手を見つけられたのだから、本来の目的を果たそうといった考えなのだろう。


「待って! ごめんなさい……でも私たち、知りたい事があって来たんです!」


彼女の声に、幸いにも荒垣の足が止まる。彼は肩越しに振り向くと、不機嫌そうに低く問い返した。


「……アキに言われて来たのか?」
「……いえ」


アキ……記憶を手繰れば、確か彼は真田をそう呼んでいたはずだ。それを思い返し、梓董が小さく首を振り否定する。

調査は押し付けられたが、その手段を指示されたりなどはもちろんしていない。ついでに言うなれば、おそらくここに来た事実が発覚した時点で、説教も免れないと思われた。

面倒だ、と息を吐く梓董の考えを、もしかしたら察したのかもしれない荒垣の双眸が細まる。




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