若干一名初対面



若干怖じた反応を返した伊織に狙いを付けたのか、はたまた彼から絡みやすいオーラでも感じ取ったのか。男は溜息混じりに告げながら、見下すような視線を投げて告げ、追い払うような仕草を見せた。

その言葉に僅か戸惑いながらも、伊織に逆らう気はないらしい。ここに来たこと自体本意ではないのだから、無駄ないざこざは避けたいと願うことは当然とも思える。


「ヒ、ヒゲ男くん?あ、あー、オレの事っスね……」


すぐにでも素直に帰りますと返しそうな伊織の態度に、そうはさせまいとばかりのタイミングで岳羽が一歩進み出た。
彼女はその性分故か全く気後れした様子も見せずに不快も露に男を睨み返す。


「ここ来るのに、なんで、あんたの許可が要るワケ?」
「ちょっ、おまっ、バカかよ!」
「こんな連中にビビんないでよっ!」


岳羽の強気な発言はその内容こそもっともだが、時と場合を考えると後の不穏要素でしかなく。気持ちはわからなくもないが、状況と空気を読んでくれと慌てて伊織が制しようとするが、その思いは岳羽には届かなかった。

結果、男達の眉間により深い皺が刻まれる。


「ああ?」
「“こんな連中”っつったよ、そのコ。つか、写メとか撮って流しちゃおーか! パパとかが気ぃ失うよーなセクスィーポーズなやつ!」
「きゃははははっ!! やべ、ちょーウケるっ!!」


苛立ちから声音を低く下げる男に便乗し、一緒にいた女達が下卑た笑みを浮かべた品の欠片もない表情で笑う。何が楽しいのかさっぱりわからないし、低俗なその思考を理解したいとも欠片も思わないが、頭の足りないその発言と無駄に甲高い笑い声が耳に障り、梓董とイルの表情に不快が色濃く宿った。

やばいのはそちらの頭の中身と構造ではないのかと、心底思う。


「こいつら、サイッテー……」


ぽつり。やはり不快を覚えたらしい岳羽が、その憤りを抑えきれずにそう呟く。

他の三人にしてみても全くの同意見ではあるが、人というものはその大多数が正論を突かれると反発してしまうもので。
特にこういった輩は逆上するまでの沸点も低いようだ。


「あちゃー。彼女いま“サイテー”とか言ったよね。ヒゲ男くんも大変だ。こんなアグレッシブなコと一緒だと……サ!!」


だから大変なのはそちらの頭の中身の方だ、と。
そんな呑気に構えている場合ではなく。
より緊張感の増した空気から、いち早く次の動きを理解したイルが、素早く伊織を突き飛ばした。

突然のことに尻餅をついてしまった伊織だったが、今の彼はそれよりも目の前の光景に目を見開く。


「イルっ!」


とっさに伊織を庇ったはいいものの、彼がいた位置に割り込む形となったイルの腹部に、強く握りしめられた男の拳が埋まっていた。


「……けほっ」


小さく咳き込み腹部を押さえて身を折るイルに、予定外に女子を殴ってしまった男の動きが流石に止まる。いくらなんでも女子を殴るつもりはなかったのだろう。
だからこそ、標的を苛立ちの原因である岳羽ではなく、その傍にいた伊織の方にしたのだろうから。

それなのにイルが伊織を庇い、代わりに殴られたりしたものだから、殴った本人だけではなく一緒にいた他の三人も戸惑いを露に顔を見合わせていた。

その隙に、すぐさま梓董がイルの傍まで寄り、身を屈める。


「……大丈夫か?」


紡いだ声が、自分で思った以上に震えていた。




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