疑念、残留



「……影時間に?」


そう、あの時間は確かに影時間の真っ只中。

人も、機関も、人工物や自然物も。全ての時が止まる時間。

正に、存在していないはずの時間なのだ。

そのような時間帯に、一体何の用事があるというのか。それこそコンビニにとて行く意味がないというのに。


「え? あ、あー、うん、まあ……」


怪しい。
普段から何かにつけて怪しさを発揮するイルだが、今はそれに輪をかけて一段と怪しく見える。何かを隠そうとしていることはどう見ても明らかだが、同時にそこを尋ねてこないよう必死に願っているようにも見えたものだから、梓董は小さく息を吐く。

少しつつけば真相など簡単に話してくれそうな気もするが、無理に聞き出す性分は、生憎持ち合わせてはいなかった。

そのため、梓董は少しばかり気にかかる気がするそれに蓋をして、別の話題に切り替える。


「……そう言えば、情報収集はしてるのか?」
「へ? あ、もしかして、怪談のこと?」


唐突な話題の変更に僅かに目を瞬かせ。
首を傾げての問いに梓董が頷いて応えたため、イルは視線を宙にさまよわせた。

やる気がないのはお互い様。答えなどわかりきっている問いをした理由は、単に変えるための話題をそこに見つけたから。
あえて躊躇ってみせずとも、答えを否で返したところで梓董が責めるわけではないことくらい、イルとてわかっているだろうに。

少しして、イルは視線を梓董へと戻さないまま、ただ曖昧な笑みを浮かべて答えを返した。


「……まあ、あんなの単なる噂話だろうしねー。噂が現実になるとかだったら危ないけど、そうじゃないしそんなに騒ぐことでもないかなー、とか」


……噂が現実?

随分と突拍子のない喩えをするものだと感じながらも、それ以外に思うところがありそうなイルの態度の方が気になる。

何かを知っていて、あえて黙っているような……。
いや、むしろ知っているけれど言えないといった態度だろうか。

どちらにせよ、その怪談話について何か知っていることは間違いないだろう。とは言え、それを梓董が追及するかと言えばそうではなく、本人が黙秘することにまで首を突っ込むような野暮な真似はしない。

……というのは建て前で、そこに労力を使いたくないだけなのだが。

とにかく。それほど騒ぐことでもないという見解は梓董としても同意見なため、簡単に同意を示して返しておいた。

何だか結局疑問を何一つ解決できていない気もするが、本人が触れられたくなさそうにしている以上、これ以上踏み込むこともできないし、その必要も今は感じられないのだからとりあえず今回はここで切り上げることにする。
が、迫る週末、岳羽からの追及は逃れられないだろうと、梓董は内心で息を吐いた。









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