疑念、残留
そんなこんなで。
「いい? 週末に、集めた情報報告しあうんだからね。ちゃんと聞き込みしてよ! イル、聞いてる!?」
「へ? あー、聞いてる聞いてる」
「ちゃ・ん・と! 報告、訊くんだからね!」
息巻く少女と適当に相槌を打つ少女が一人ずつ。
そんな彼女達の会話を、梓董は耳にかけたイヤホンで遮断していた。
《6/02 疑念、残留》
事の発端は先日。隣のクラスの女生徒が、校門前で倒れていたところを発見されたことから始まる。
その話は瞬く間に学園中に広がり……怪談話にまで発展していった。
内容は、倒れていた女生徒は、夜中に校内へとやってきたため、死んだ生徒に食われてしまったのだという荒唐無稽ともとれるもの。
……下らない。
半分眠りながらまともに聞いていなかった梓董とは違い、伊織が持ち込んだその話に必要以上の反応を示したのは岳羽だった。
どうやら彼女はそういった怪談話の類が苦手らしい。それに気付いた伊織がからかったりするものだから、元来勝ち気な性格の彼女に火をつけ。
徹底的に調査をし、オンリョウ不在説を確立させようということに決定してしまったわけだ。
先輩二人は完全に傍観を決め込み、伊織は焚き付けた張本人なのだから強制参加は当然だとしても、納得いかないのは梓董とイル。二人は完全にとばっちりを喰った形となる。
物凄い剣幕で岳羽に強制された二人は、それでも堂々とやる気を見せず。聞き込みをする気すら見せない二人を、岳羽も口では文句を言いつつ強要しようとしながらも、大してあてにはしていない様子。
まあとにかく。やる気のないそちらはなるようになるとし、梓董は放課後、珍しく帰りが一緒になったイルに別の話題を問いかけた。
「……イル、夜中に出掛けてた?」
「……へ?」
何でもないような日常会話の中、思い出したように切り出されたそれに、イルはきょとんと目を瞬く。
それから僅か視線を宙にさまよわせ。
「……どうして?」
小さく、尋ねて返した。
答えにくいような問いだったのだろうか。そう思いつつ、それならばおそらくあの少年の言葉は正しかったのだろうと内心で思う。
事実でないなら否定すればいいだけの話なのだから。
「いや。あの子供がそんなこと言ってたから」
気になったからとかそれほどのものではなく、単に思い出したから訊いたまでと暗に告げ。
そんな梓董の言葉に、イルは僅かに目を見開き、それからどこか少し残念そうに肩を落とした。
「あー、そっか。昨日……というか今日だったかあ……。会えなかったな、今回……」
……会いたかったのだろうか、あの少年に。
二人はあの時が初対面かと思っていたが、実は既に面識があったとでもいうのか。
あの少年の反応から察するに、少なくとも少年はイルを知らない様子に思えたが、イルのことだ。もしかしたら一方的に少年のことを知っているとも考えられる……気はするが、果たしてそれに現実味があるかと言えば是とは言い難い。
問うてみようかと思った時には、再びイルが口を開いていた。
「ちょっと用があって」
それは遠回しながらも、先の梓董の問いかけに対する肯定を示し。しかし、そうだとするなら更に疑問を増やすものでもある。
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