彼女への不審



「彼女は特殊みたいだからね」
「……特殊?」
「うん。……何て言うのかな……。近い、とか、似ている……。そんな感じ」


……似ている? 誰に?

またこの少年は、わけのわからないことばかりを言う。話すつもりがあるのなら、きちんとわかるように話せばいいものを。

そう考えながらも、きちんと話されたとして聞き手側である梓董がしっかり聞くかと言えば断言できるものではなく。その辺は自覚しているため、梓董が少年を咎めるようなことはなかった。

……追随が面倒だっただけなのかもしれないが。

とりあえず、少年が嘘を吐いているようには見えないが、イルの現在地云々という話の真相は梓董にはわからない。
少しだけ気になるような気もするが、それにはあえて蓋をした。

面倒だからという理由よりも、何故気になるかがわからないという理由からそうしたことにも目を瞑って。


「まあ、いいか。えーと、あと一週間でまた月が満ちる。そしたら次の試練がやってくるよ……」


それが本題なのだろう、少年は自分から振った話題を自身で打ち切り話題を切り替える。
その内容にまたかと溜息をもらす梓董だが、やはり少年は気にもせずに続けた。

……何だか梓董との会話の仕方を心得ているように思える。


「気をつけて。……また、会いに来るよ」


前回と同じ去り際の台詞。それを残し、梓董の身を襲っていた重みがすぅっと静かに消えていく。
音もなく消えた重みと共に、梓董の上にただただ深い闇が戻った。

……試練。

前回それを告げられた後の月が満ちる夜に訪れたものは、モノレールを乗っ取った大型シャドウとの対決。

まさか少年はあれを暗示していたというのか。

いやしかし、もしそうだとして、何故あの少年にそんなことがわかるのだろう。少年はあの大型シャドウと何か関係があるとでもいうのだろうか。



――……どうでもいい。



しばし考え込んでいたそれを、少ししてお決まりのその言葉の中に収めると、梓董はそのまま目を閉じる。
少年が何者であろうと、あの大型シャドウの正体が何であろうと、どうでもいいことだ。

悩んだところで解決する術を持つ存在は消えてしまったし、先輩達はあの大型シャドウをイレギュラーと見ていた。そうそう現れるものでもないだろう。
それに、今はそんなことよりも眠気の方が限界だ。

明日はまた、睡眠学習になりそうだ、と。

頭の隅でぼんやりと考えながら、梓董は意識を深く落としていった。









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