彼女への不審



今日も一日が終わりを告げようとするその時。多くの人々が体感せずに終わる、影時間なる時間はひっそりと始まりを迎える。
それは今日も同じことで。


「やあ、こんばんは」


そんな時間に安眠妨害を受けた梓董は、暗闇の中に静かにその姿を現したしましま服の少年を心底嫌そうに眉根を寄せて見やった。










《6/01 彼女への不審》










僅かの間。少年へと向けていた視線を、ベッドの中に潜り込み寝返りを打つことで逸らす。
頭の上まで布団を被り無視を決め込もうとする梓董を、その布団の上からずしりとした重みが襲った。


「約束通り、また会いに来たよ。調子はどう?」


降る、声。
変わらぬ調子で飄々と告げるそれはあの少年のもので。ついでに言えば、重みと同じ方向から降ってきたのだ。間違いなく、重みの正体は少年である。

しかしながら、わかったところで苛立つどころか気にしないのが梓董戒凪という男だったりするわけで。襲ってくる眠気に抗ってまで少年の相手をする気はないらしい彼は、豪胆にもそのまま再度眠りにつこうと決め込む。

ある意味、漢だ。


「ねえ、今日はイルは一緒じゃないの?」


ぴくり。
眠ろうとしていた意識が、少年の紡いだその一言により繋ぎ止められてしまった。
布団の中僅かに目を開くが、開いたところでそこにはただ闇が広がるばかり。布団を下げて首を少し動かせば、あのしましま服を着た少年の姿が見えることだろうとは容易に想像できる、が。生憎、梓董にそこまでする気はないらしい。

布団を被り続けたまま、それでも答えだけは紡いで返した。


「……別にいつも一緒にいるわけじゃない」


むしろ前回が稀に分類される方。

イルはそれこそ必要以上に梓董の身を案じるが、だからといって常日頃から梓董にべったりとくっついているわけではない。日常生活は両者共にプライベートが守られているわけだ。

当然と言えばまあ当然だろうが。

とにかくそう答える梓董に、少年は不思議そうな声音で返した。


「じゃあ、イルがどこにいるか、知ってる?」
「……部屋にいるだろ」


何せ時間が時間だ。
夜中だということもあるが、全ての機関が活動を停止する影時間に、わざわざ外に出る必要性がわからない。タルタロスに向かうにしても、一人では危険だからと先輩方からきつく注意を受けている。部屋で寝ていると考えるのが一番有力な筋だろう。

梓董の場合、適当に答えただけとも思えるが。

とにかく、そんな返答を受けた少年は、なお不思議そうに続けて紡いだ。


「それが、いないみたいなんだよね。少なくとも、この建物の中にはさ」


……いない?

この寮の中に?

夕方、ラウンジに皆で集まり伊織の怪談話を聞かされた時には、確かにイルもいたはずで。その時にも特にどこかに外泊するなどという話は聞いていない。
梓董が聞いていなかっただけでイルが外泊していたとしてもまあ不思議ではないが、それよりも。


「……何でわかる?」


布団をようやく僅かだけ下げ、目元までをそこから出し少年を見やる。
少しばかり反応を示した梓董に、しかし少年は変わらぬ様子で笑みを刻んで答えた。




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