捜せど捜せど



「うあー、やっぱりダメだー……」


ぐてりと。
青の世界の中心部。設置されたテーブルの上に上半身を倒して呻くイルに、ここの住人の一人であるエリザベスが小さく首を傾げていた。










《5/30 捜せど捜せど》










「……見つかりませぬか」


イルの言葉の意味を解し問うもう一人の住人、イゴールに、イルはゆっくりと溜息を吐き出し。顔を上げて頬杖をつき、更に眉根を僅かに寄せてから答えを返す。


「さっぱり。もう一人の方はちゃんと見つけられたのになー……」
「……これだけ捜して見つけられないとなると、その方はもしかしたら気配の察知に長けているのかもしれませんね」


あなた方のお仲間の方のように。

そう続けて告げるエリザベスの言葉に、イルは頬杖をやめ頭を上げ。きょとんと目を瞬かせた。


「……気配、って……桐条先輩のような? ……とすると、適性有りってこと?」


言いながら答えを欲するでもなく自身で悩み、僅かの後に小さく頷いてみせる。


「でも確かに。そう考えれば、あたしじゃ見つけられないのも納得だ」


昨夜。エリザベスにより呼び出されたイルが聞いた話は、タルタロス内に迷い込んだ人がいるというものだった。

エリザベスが感知した反応は二つ。つまり、迷い込んだその人物は二人ほど存在するということ。

影時間は本来存在しない時間なのだから、その間干渉できぬよう象徴化してしまう一般の人達がそのようなことになるなど、そうあることではないはずなのだが……。

ともあれ、タルタロスの中はシャドウの巣窟。普通の人間にとっては危険以外の何物でもないわけで。その「普通」という枠から外れているイルが、とりあえず捜してみることにしたのだ。

……梓董の手を煩わせないようにと、一人単独で。

幸い、エリザベスの言葉に従い捜すことで、迷い込んだとされる二人の内の一人はすぐに見付けることができた。独断で単独行動を取ったことが仲間達に露見しないよう、イルは見つけ出した彼女を影時間後に元の姿へと戻った学校の校門前に放置してきてしまったため、今日の校内でちょっとした騒ぎになってしまったりもしたが、まあ命に別状がないことだけは確認したのでとりあえず勝手に良しとする。

問題は、もう一人だ。

昨夜の影時間を全て費やしてなお見付けることができなかった存在。その人物を見つけようと今日も一人タルタロスを訪れたイルは、しかし未だにそれを成せてはおらず。その理由がエリザベスの言葉通りだとするならば、それも納得のいく話なのだが。

……しかしそうなると、いくらイルが懸命に捜してみたところで、見付けられるはずもないということにもなってしまう。


「……うーん。どうしたものかなー……」
「依頼としてお伝え致しましょうか?」
「戒凪に? ……まあ、あたしがこれ以上捜してみても、成果はあげられなさそうだしね」


あまり長いことタルタロスの中にいるのはかなりの負担になるし、例えその人物がエリザベスの予想通りシャドウの気配を察知することができる人物だったとしても、だからと言って必ずしも安全だとは言い切れない。ここはエリザベスの提案に乗り、早急に解決した方が良策ではありそうだ、が……。


「……場所、フツーのタルタロス探索じゃ行けないところだからなあ……」


ぽつり。呟くイルの言葉は、エリザベスが伝えた情報に基づくもの。

どうやらタルタロスに迷い込んだその人物は、普段梓董達が取る方法……影時間になり、学校がタルタロスへと変貌してから侵入するのとは違い、元々学校に残っていてタルタロス内へ放り込まれたようだという。

ただでさえ入る度に地形が変わるタルタロス。それなのに変則的な入り込み方をしたとなると、普通に捜して見付けられる場所にいるとは考え難い。

だからこそ、エリザベスはイルにその情報を教えたのだし、事実、見つけた一人は通常入り込めるような場所ではない所で見つけたのだから。


「やっぱりあたしが捜すしかないと思う。もうしばらく頑張ってみるよ」


意気込み新たに。大きく一つ頷いてみせたイルは、言葉通り捜索を再開するため、一人ベルベットルームを後にした。









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