責任転嫁のその先は



「考えを改めないなら俺から梓董に言っておく。今後もお前をメンバーに入れるなとな」
「な……っ、卑怯です、先輩!」
「何が卑怯だ。嫌ならもっと自重するんだな」
「む……。真田先輩に自重とか言われた……。一人で突っ走ってアバラ折ったくせに」
「なっ! あれは違……、じゃなくて何故知ってる!?」


拗ね気味に反抗する質の悪さを見せるイルの言葉に、真田は思わず自身の顔に朱を差して。あの時はまだイルは仲間になっていなかったはずだと続ければ、さあ何故でしょうねと可愛くない態度での返事が返る。

まったく、何故この少女はああ言えばこう言い返すのか。梓董の前では素直だというのに、まるで同一人物とは思えない。

そう思いふと考えてみれば、こうも自分につっかかってくる女子は、イルが初めてであるような気がする。

桐条はともかく、学内の女生徒達など甲高い黄色い声を上げ付きまとってくるばかりで。正直、辟易することがほとんどだというのに。


「……まったく……。変な奴だな、お前は」


妙に頑固だし、と。続けて告げればイルはきょとんと首を傾げ。さも不思議そうに眉根を寄せた。


「それ、戒凪にも言われたんですよね。あたし、至ってフツーなはずなのに、一体どこが変なのか……」
「さあな」
「む、人を変人扱いしておいてそんな投げやりな態度が許されると思ってるんですか!」


むう、と再び頬を膨らめてみせるイルを後目に、真田はやや伸びてしまったラーメンを食べきる。ちらりとイルの器に目を向ければ、彼女のラーメンはあまり減っているようには見えず、むしろ伸びる方が早く量が増えてきているようにすら思えた。


「食べないのか?」
「へ? あ、ラーメンですか? 食べますよ」


残したら失礼じゃないですか、と言いおいて、ようやく箸を進めだすイルだが、食べるペースはどうにも遅い。元が少食なのか、それとも今はたまたま空腹にないのか。

どちらにせよ、懸命に麺と格闘するその姿は、どことなく可笑しく思えた。まるで小動物が必死に餌を頬張っている様のように見える。


「……イル、例えお前が梓董を守ったとしても、そのせいでお前が傷付いたら元も子もないだろう。何より、そうなったらおそらく、梓董が自分自身を責める。それじゃあ、守ったとは言えないんじゃないか?」


唐突に。先程までとは打って変わって、酷く穏やかな……冷静な、諭すような口調で告げられた真田の言葉にイルは一瞬軽く目を見開いた後、彼から僅か視線を逸らし何やら一人考え込こみだした。そのまま少しして、ぽつりと小さく口を開く。


「そう、なのかな……。……戒凪、優しいし……そうかもしれない」


一人ごち、それから静かに顔を上げたイルは、ただ真っ直ぐに真田を見つめた。そのアオい双眸が、緩く柔らかく細められる。


「……考え、改めてみます。戒凪を傷付けたくはないので」


あくまで梓董を優先する姿勢を崩す様子はなくとも、それ故に梓董を傷付けない最善を尽くそうと思うのだろう。

本当に、どこまで梓董が大切なのか。

呆れる反面、その真っ直ぐな想いが眩しくも思える。

イルに告げた言葉が、自分自身の耳にも痛いことには気付かないふりをして、真田はイルがラーメンを食べきるまでただゆったりと待っていた。









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