責任転嫁のその先は
「……真田先輩のせいです」
「は?」
久々のタルタロス探索から数日。真田の食事に付き合い、共にはがくれを訪れていたイルがぽつりと恨めしそうに呟いた。
《5/29 責任転嫁のその先は》
何を突然突拍子もないことを。
真田ははがくれの特製ラーメンを食べる手を一時止め、怪訝に眉を顰めながら隣に座るイルへと振り返る。彼女はラーメンを少しずつ啜りながら、合間を縫って息を吐いた。
「戒凪、話はフツーにしてくれるのに、タルタロスの探索メンバーにあたしを入れてくれないんですよ? きっと真田先輩が人の話も聞かずに強引に散開なんかさせたからです」
「意味がわからん」
イルが先日タルタロスの探索メンバーから外されてしまったことは確かに事実だが、それの非が真田にあるというのは少し無理が過ぎる話だ。イルの思う理由が原因だというのならば、それこそ真田の方が探索メンバーから外されそうなものなのだから。
だからこそ、理解できないという真田のその感想は誰が見ても正しい。それに。
「大体、お前が無茶を押してまで梓董を守ろうとするから悪いんだろう。何故そこまでして梓董を守りたがる? あいつはそんなに弱くない」
むしろ、リーダーという大任を問題なくこなせるほどに有能な存在だ。それはイルにだってわかっているだろうに。
そう思いながら問い、真田は再び麺を啜る。そんな彼に、イルは視線を落として呟いた。
「……それが、あたしの存在意義なんです。選んで残してもらったあたしのすべてだから」
「? どういう意味だ?」
真田に答えているはずなのにまるで独り言のようにも聞こえるイルの言葉の意味がわからず、思わず眉根を寄せて彼女を見やれば。彼女は思い切り顔を上げ、真田を真っ直ぐに……睨み付ける勢いで仰いだ。
「とにかく。あたしは死なないからいいんです! 心配はごもっともですが、あたしのことは放っておいてもらって平気ですので」
「死なないって……何を馬鹿なことを言ってるんだ! あんなやり方で平気なはずがあるか!」
「あります!」
むう、と口を尖らせて。まるで子供のように変に頑ななイルの言葉は、普通に考えて有り得るはずのない事象。
……死なない、などという人間がいるはずはないのだ。
イルはそれをわかっていない。わかっていない上で無茶を通そうとする。
放ってなんておけば、間違いなくその無茶を繰り返すことだろう。
人の死の重みを知るからこそ、真田にはそれを見過ごす真似はできなかった。
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