蒔かれた種



「駄目だ。お前を庇おうとするんだから、お前が一緒じゃ意味がないだろう。一度離れて、きちんと防御を身に付けさせる」


梓董を庇うのだから、梓董と共に行動して彼にばかり意識が向かないよう注意させた方が理に叶っているのではないだろうか。そう思う梓董の考えなど露知らず。真田は頑として考えを曲げそうにない。

面倒な人だと内心再び溜息を吐く梓董に代わり、ここでようやくイルがきちんと口を開いた。いや、開かせてもらえたといった方が正しいか。


「あの、真田先輩。心配はごもっともかと思いますが、あたしなら死んだりしませんから。それよりも戒凪を守れない方が、あたしのいる意味がない」


きっぱりと。言い切る言葉は、イルの変わらない決意にも似た想いを宿していて。



――あたしが、キミを守るから。



この間の満月の夜。告げられたそれは、その意志に込められた優しく暖かい温もりは、あの時の梓董に戸惑いをもたらしたものだけど。



……今は、何故だか酷く不服に思える。



気のせいだ、と思おうとしても拭いきれないその感情。何故そう感じてしまうかはわからなかったが、どうやら彼女に守られるということに納得がいかないのだろうとは漠然と感じた。

だがそれは自分が男で、イルが女だからという、そういう男女観的な概念とは違うような気がして。ならばどこからくる想いだというのかは、やはり思い至ることはできないようだ。

とにかく。


「……じゃあ、散開」
「え!? いや、ちょ、待ってよ戒凪!」


どこから出てきたじゃあなのかは不明だが、とにかく梓董の下したその判断に、慌てた様子で異議を申し立てようとするイル。が。

着ているパーカーのフードを素早く真田に引っぱられ、それは阻止されてしまった。


「よし、行くぞイル」
「うえっ!? ちょ、締まる! 締まります、真田先輩! てかあたしは戒凪を……」
「俺のことなら気にしなくていい」


首が締まらないよう、何とか首元に手を挟み。その状態でそれでも抵抗を試みるイルに告げる、梓董の宣告。それを耳に一瞬目を見開いた後、みるみる歪んでいくイルの表情は、自身の導となるものを見失ってしまったかのように困惑を色濃く宿し。何故、と問うアオい瞳が泣きそうに歪む様から、梓董は思わず目を逸らした。

引き摺られるように真田に連れられていくイルは、もう抵抗する様子もなく。そんな二人の背を見送り、梓董と岳羽もまたそれぞれ散開して各々探索へと繰り出すことにした。














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