蒔かれた種



今夜は久々にタルタロス探索に繰り出したS.E.E.Sの面々。試験が重なったことも相俟って、ずるずると伸ばしてしまっていた探索を今夜ようやく行うと、ふと思い出したかのように梓董が告げたのだ。

そのため、急な決定であるということもあり今日は外せない予定があるという伊織が不在の中、岳羽とイル、そしてようやく復帰した真田を伴って新たに開かれた階層に向かってみたわけだが。


「っ! 力を貸して。アングルボダ!」


今夜幾度目かになる戦闘中、何かに気付き慌てた様子でイルが自身の側頭部に召喚器を押し付け引き金を引いた次の瞬間。現れた彼女のペルソナが放った炎が、いつの間にか梓董へと迫っていた敵シャドウを滅した。が、それに息を吐く間もなくその直後。


「イルっ! 後ろ!」


悲鳴にも近い岳羽の声に一早く反応を示したのは当の本人であるイルではなく。その声にすぐさま振り向いた梓董が目にした光景は、イルに迫っていた敵シャドウをすんでのところで真田が殴り倒したところだった。













《5/26 蒔かれた種》










この辺りで遭遇した敵シャドウを倒し終えたところで、ナビを務める桐条から敵の反応が消えたとの通信が入り、一応一段落がつく。

それに岳羽が安堵した様子で息を吐く姿を気に止めることもなく、梓董はすぐさまイルへと声をかけようと口を開きかけた。が、そこから言葉が紡ぎ出されるよりも早く真田がイルの腕を掴んで引き、彼女と向き合い真正面から彼女のあおい瞳を捉え声を上げる。


「イル、何だ今の戦い方は!」
「へ? え、あの……」


唐突な切り出しに、腕を掴まれた体勢のまま、イルは戸惑った様子で数度目を瞬かせた。一体何だというのだと、揺れる瞳が惑っている。そんな彼女に、真田は留まることなく続けて言葉を被せた。


「今の攻撃、梓董の方に気を取られなければ避けられたはずだ」
「あ、それは……でも」
「でもじゃない。お前は梓董を気にしすぎだ。それで自分の防御が疎かになっていたら意味がないだろう!」
「いや、あの、だから先輩……」


真田の言葉はもっともだが。それに対し、イルにも言い分があるように見えるが、真田にそれを聞く様子は見受けられない。とにかく一気にまくし立てると、彼はふいに梓董へと振り向いた。


「散開だ」
「……は?」


短いその言葉に、何を突然と梓董が視線で問いかければ、真田はそれを察してイルを示してみせる。彼女に背を向けた形で、背中越しに親指で指差して。


「このままだと、もしまた大型シャドウにでも襲われたら足手まといになりかねん。俺が少し面倒をみてくる」


今日は調子もいいことだし任せておけと続ける彼の後ろで、当のイルは困った様子で眉尻を下げ。視線で梓董に助けを求めていた。


「……なら、俺が面倒見ます」


溜息を一つ吐き。真田を納得させ、かつ、イルも承諾するだろう提案を梓董が口にする。

イルが自身よりも梓董のことを優先させ、そのせいで自分の防御を疎かにしていることには梓董とて気付いていた。同時に、それがあまり良い傾向とは言えないことにも。

……守ろうとする、というその行動にどことなく不満のような気持ちを覚える気もするが、それはとりあえず気のせいということにしておいて。

とにかく、だからこその梓董の言葉は、即座に真田によって却下された。




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