まず打ち倒すは目の前の強敵



休日挟んだ月曜日。本日最大級の一大イベントを前に、様子のおかしい人物が身近だけでも若干二名ほど。


「……てかイル、新しいペルソナ使いのことも、真田先輩の復帰もそっちのけだよね」


今更何の意味があるというのか。祈るようなポーズをとり、神妙な面持ちで自席に座る二名の内の一人、イルに、常となりつつある溜息混じりで岳羽が紡いだ。










《5/25 まず打ち倒すは目の前の強敵》










岳羽に声をかけられても、イルは全く顔を上げることはなく。それでも話はしっかりと聞いているのか、答えだけはきちんと返してきた。


「いやいや。真田先輩の復帰は素直に嬉しいし、新しいペルソナ使いのこともちゃんと聞いてたよ。その人、体が弱いとかで誘うの断念するんでしょ?」
「……じゃ、その子の名前は?」
「…………山、えっと、山風さん」
「誰それ」


聞いてないじゃん、とやはり溜息を吐く岳羽に、イルは慌てた様子でそれどころではないのだと言い訳をする。

その理由などただ一つ。



今日が先週行われた試験の結果の発表日であるからだ。




「あのね、順平もそうだったけど、今更何もしようがないでしょ」
「う〜、だって、点数悪いと理緒や戒凪に顔向けできないし」


というよりも、下手な点数を取ってこの間の冗談が実現されでもしたら笑えない。影時間までをもフルに活用し、計算式を解かされたり暗記をさせられたりしたあの日々は、できればもう二度と味わいたくはないものだ。

……電気が使えないからと蝋燭を使用してまで勉強をするなど、鬼の所業としか思えない。

本人には口が裂けても言えないことだが。


「……でも、梓董君が勉強見てくれるなんて意外だったな。何か、彼って他人の事なんてどうでもよさそうに見えるし」


呟かれた岳羽の言葉に、ここでようやくイルの顔が上げられる。彼女は不思議そうに岳羽を見やると、その表情と同様の声音で答えを紡いだ。


「戒凪、優しいよ?」
「優しい?」


どうやらイルの告げたそれは岳羽の中の梓董のイメージとは違うらしい。訝しげな疑問系で訊き返され、イルの不思議顔が深まった。


「優しいでしょ? 戦闘中の指示も各自の状態、状況を判断して適切に対応してくれたり、さりげなく援護してくれたり。戦闘中だけじゃなくて普段だって、あまり自分からは話さないけど、他人の話、ちゃんと聞いてくれたりしてるし」


聞いた上で、どうでもいいと返すのは果たして優しさと言えるのか。

わからないが、クラスメートの友近や宮本、他にも生徒会や部活動関係者にも信頼されていると耳にしたことがある以上、イルの言っていることはあながち間違いでもないのかもしれない。戦闘でも、確かにリーダーだからという理由からではあるだろうが、だからといって実際にそれを行動で表せる者となるとそうはいないと岳羽も思う。

本人がポーカーフェイスを崩すことなく、そのどれもを飄々とこなしてみせるから気付かずにいた……というよりも普通のことのように思えてしまっていたのだが。


「……イル、凄いね。梓董君のこと、本当によく見てるんだ」
「え? ……もしかして、あたし、ストーカーっぽい?」
「……まあ、一歩間違えたら、というか、方向性を間違えたらそうなりそうだけど」



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