解放



「お、お、お、終わったああああっっ!」


中間試験最終日。最後の試験の問題用紙を提出すると同時にそのまま叫んだものだから、クラス中の視線がイルへと注がれる。

梓董はそんな彼女の様子に小さく馬鹿だとだけ呟き、一人視線を逸らして溜息を吐いた。










《5/23 解放》










「もう、イルってばさすがにあれは恥ずかしすぎでしょ」
「気持ちはわかるけどな、スッゴく」


梓董の席の周辺に集まって。呆れ気味に溜息を吐く岳羽と心からの同意を示す伊織に、イルも小さく息を吐いてどこか投げやりにも見える態度で返した。


「ああもう何でもいいや、本当。これで理緒と戒凪から解放されるんだし」
「……ふーん。イル、そんな風に感じてたんだ?」
「えっ!? や、えっと感謝はしてるよ! いや、本当! 赤点補習は本気勘弁だし」
「じゃあ日頃から勉強するしかないな」
「あああ、墓穴っ!? ごめんなさい、許して下さいー!」


意地悪く口の端を持ち上げてみせる梓董に向け、慌てて態度を改めたイルが拝むように両手を併せて頭を下げる。どうやら夜間講習は軽くトラウマになっているようだ。
そんなイルの様子にやれやれとでも言いたそうに肩を竦めてみせた岳羽が、それにしても、と梓董に視線を移し意外そうに口を開いた。


「……何か、梓董君、雰囲気変わった? いつもなら興味なさそうに流してそうなものなのに」
「そーだな。いつもよりジョーゼツっつーか、何か楽しんでる感じするし」


岳羽に乗るように伊織までそう言うものだから、梓董はイルに向けていた視線を一度二人へと移し。それからふいと外方を向き顔に浮かんでいた表情を消し去りいつもの無表情へと戻ってしまう。


「……別に」
「お、もしかして照れてる?」
「…………」
「……だからシカトすんなって……」


照れているのか否かは、ポーカーフェイスが板に付いている梓董の様子から判断することは難しい。が、だからこそ確かに梓董が笑ったところなどそうそう見られるものではなく。

……笑みの質についてはまあ、おいておくとして、だが。

岳羽が雰囲気が変わったと感じても不思議ではないのかもしれない。


「あ、そうだ。あたしこの後、結子と理緒と約束あるんだ! テストの打ち上げ。田中さんのテーマ歌ってこないと!」
「田中さん……って、もしかして、あの胡散臭い通販番組の?」
「そうそう。て、胡散臭いって……。まあいいや。そういうわけだから、またね」


岳羽のツッコミをものともせず。それどころか先程の話題にも触れることなく、イルはまるで嵐のように駆け去って行ってしまった。

それはもしかしたら、あの話題が続くことを面倒に思った梓董の内心に気付いての行動だったのかもしれない。もちろん証拠もないので、断言することはできないのだが。

……いや、いくらなんでもそれは都合がよすぎる話か、と。そう考え息を吐く梓董の傍で、岳羽と伊織もまた、密かにイルを「変」な奴だと認定していた。









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