試験準備



「ただいま〜……」
「……おかえり。試験前なのに、遅かったね」
「う、思い出させますか、それ……」


夕食を食べにラウンジへと降りていた梓董が、たまたまそこへ帰宅してきたイルを見かけて声をかければ。彼女は部活をしてきた時以上に疲れた様子で息を吐いた。


「理緒の家で半強制的に試験勉強してきた。うあー、疲れた……。しかも今週、ずっとやるんだって。気が重いなあ」


梓董が食器の片付けに入っていたからか、イルはカウンター前の椅子を引きそこに腰掛け頬杖をつく。そんな彼女の言葉に、常ならばふーんの一言で返す梓董が、珍しくきちんと言葉を紡いだ。


「イル、勉強苦手なんだ?」
「むー、苦手というか、まあまあ大嫌いというか……」
「……何それ」


少なくとも日本語は得意ではなさそうだ。
いや、国語か。

今の会話からそう判断した梓董はしばし悩む素振りを見せ。それから相変わらずのポーカーフェイスのまま静かに口を開き直した。


「……なら、夜は俺が勉強見てあげようか」
「へっ!?」


そんなに意外なことだっただろうか。
思いきり目を見開いて驚くイルに、正直自分自身でさえも意外だったと梓董は胸中でひそりと思う。

そんな面倒なこと、普段ならば考えもしないはずなのに。

何だかこの間の満月の時から、少しばかり自分の中の何かがおかしいような気がする。が、今のところ夜は特に予定もないし、まあいいかとその思考に蓋をした。


「……嫌なら別にいいけど」
「ええ!? 嫌なんてそんな恐れ多い! ……って、何か最近こんなやりとりしたような気が……」


小首を傾げるイルの姿を目に、やはり思うのはイルは変だということ。それが面白いとイコールになると、今気が付いた。

梓董はイルに気付かれないくらい小さく笑うと、食器を片付け終えさっさと歩き出す。そうして階段前まで歩いて来てから、肩越しに軽くイルへと振り返った。


「……行くぞ」
「え? あ、待って!」


流されるように。

決まった勉強詰めの日程は。



これからしばらく、毎日イルに悲鳴を上げさせることとなる。














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