試験準備



「理緒ー。部活行こー」


休み明けの月曜日。教室の入り口の扉からひょこりと顔を覗かせ片手を振って呼んでくるイルに、岩崎は一瞬きょとんとし。それから呆れ気味に大きく溜息を吐きだした。


「……イル、今試験前だから」











《5/11 試験準備》










「てかありえないでしょ。あれほどうるさく、特に江古田とかしつこいくらい試験だって言ってたのに」


まあ、気持ちはわかるけど、と付け足し溜息混じりにそう紡ぐ西脇。

試験の話題などそこかしこで出ていたというのに全く既知していなかったイルに、そのことを教えたのは岩崎で。ついでとばかりに一緒に勉強しようと提案した彼女に、なら西脇もと誘ったのはイルの方。

結果、今は三人で岩崎の部屋にて勉学に勤しんでいる最中だったりする。
図書室を選ばなかった辺り、お喋りだけはやめられないと自覚しているということなのだろう。


「でもさ、西脇じゃないけど、授業で相当言われてたよ? 何してたの、イル」
「えー? いつも放課後絶好調!」
「威張ることじゃないって。って、私もあんまり人の事言えないんだけどね」


岩崎の問いに暗に睡眠学習だと答えるイル。その真偽は彼女と違うクラスに所属する岩崎や西脇には計ることもできないが、とりあえずイルにそうつっこみながらも、西脇はこの間古文の小テストを白紙で出して呼び出しを喰らったと愚痴をもらした。


「あーもー、テストなんて滅べばいいのに」
「結子、いいこと言う!」
「言ってないから。もう、ほら二人とも、手が止まってるよ」


ぶつぶつと文句を言いつつ、それでも渋々と教科書とノートに向き合うイルと西脇。そんな二人とは違い、しっかりと自身の勉強を進めつつ、二人の勉強も見てやっている辺り、岩崎は相当できた人物だと思えた。

時折音を上げる二人を宥めては自身の勉強を進めるという、何とも人の好いサイクルを岩崎が繰り返し行うこと二時間と少し。いつの間にやら日が落ち始めていたことに気付いた西脇が、慌てた様子で声を上げる。


「え、もうこんな時間!? ごめん、私そろそろ帰らないと」
「へ? もうそんな時間? じゃああたしも帰ろうかな」


時刻は6時を半分近く回ったところ。まだ夕方だとも言えなくはないが、あまり長居をしては岩崎に悪い。という理由もあるし、西脇が帰るならばこの辺りがお開きに丁度良いという理由もあるだろう。それらの中にいくらか勉強からもう逃れたいという思いがあることも否めないだろうが。

とにかく。そそくさと荷物を纏めて立ち上がる二人を、岩崎は玄関まで見送ってくれた。そんな彼女に玄関口でイルと西脇が今日の礼を告げる。


「ありがとう、理緒。勉強見てくれて」
「うん、助かった」


二人が交互にそう告げれば、岩崎は僅かに照れた様子で微笑み。小さく首を振った後、質を変えた笑みを以てにっこりと答えた。


「いいよ、このくらい。私の復習にもなるし。じゃ、今週はウチで勉強会ね」
「えっ、嘘……」
「ちょ、勘弁してよ、岩崎」
「駄目。二人とも放っておくと、勉強しなそうだし」


ね、と言われれば、正直否定のしようがない。面倒見が良いことはありがたいが、正直その内容が全くもってありがたくはないためできることなら全力で遠慮させて頂きたいところだ。が、何故だろう。にこにこと笑む岩崎のその笑みに、有無を言わさぬ迫力を感じてしまうのは。

イルと西脇はうまい断り方も思い付かず、結局岩崎に言われるまま泣く泣く同意することになり、帰路へと着くのだった。










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