不協和音



その言い種にさすがに頭にきたらしい岳羽が、眉根を寄せて声を張り上げた直後。今まで沈黙を保っていたイルが、ただ静かに口を開いた。


「口だけだったら何とでも言えるよ。人の忠告無視して迷惑かけて、謝りもしないで自分の実力を誇張? あたし、キミには絶対に命預けられない」
「なっ!」
「ちょ、ちょっとイル、いくらなんでも言い過ぎじゃあ……」


これはまるで、伊織と岳羽の立場が逆転しただけで、列車に乗る前と同じ光景のようではないか。自分の怒りすら忘れて慌てた様子でイルを諫めようとする岳羽は今、確かに列車に乗る前の伊織と同じポジションにいるように思える。

キミには命を預けられない。はっきりとそう告げた彼女のその言葉からようやく察することができたもの。それは今日の作戦開始から、ずっとイルが無言と無表情を貫いていた理由が、伊織の態度が原因だったようだということ。

梓董がリーダーを任されたことに、正当性などまるでない文句を感情任せにつけていたことが気に入らなかったらしい。

それでも今までずっとそれを自分の中に押し込め黙していたのだと思われるが、今の発言を受けさすがに耐えきれなくなったようだ。一気にそう言い切るイルを、図星をさされた伊織が強く睨みつける。

イルはその視線をどこまでも冷めた目で見返していた。


「ちょ、梓董君、どうにかしてよ」


どうにかと言われても。
どう口を挟んだところで面倒には変わりなさそうだと梓董が眉根を寄せたその時。


『おい、気をつけろ! 敵の動きが急に静まった。警戒を怠るな!』


救いの声、もとい、桐条からの通信が入り、直後、本来影時間中はその機能を停止させているはずの列車が何故か急に動きはじめた。突然のことに、各々崩れかけてしまった体勢を慌てて立て直す。
その間にすぐさま改めて桐条からの通信が入り、それにより列車全体がシャドウに支配され動かされてしまったのだと判明した。


『このままスピードが落ちないと、数分で1つ前の列車に追突する』


そんなことになれば、間違いなく大事故になる。

などと他人事に考えている場合ではなく、それでは自分達の命とて危ない。桐条が言うには先頭車両に強い反応があり、それが本体だろうとのこと。とにかく急いでそいつを倒し、列車を止めなければ。

直後に行く手を遮るように現れたシャドウを素早く倒し、時間が惜しいとすぐさま全員で駆け出した。途中、次々に道を塞ぐように現れてくるシャドウを相手にしながら、隙を見つけてイルが梓董へと声をかける。


「……ごめんね」
「……何が?」
「さっきのこと。戒凪に迷惑がかかるのはイヤだから、なるべく我慢してたんだけど……」


目に見えてわかりやすく落ち込んだ様子を見せながらも、イルはしっかりとシャドウ達を倒していく。その無駄のない正確で迷いない動きは、岳羽ではないが本当に何者かと問いたくなるほど場慣れしているように思えた。


「……謝る相手が違ってる」
「そう、なんだけど」


ちらりと岳羽や伊織に視線を向け、直後に眉根を寄せるイルの様子に小さく溜息を吐く。

これはどうやら、意外と頑ななようだ。

まあ人にはそれぞれ合う人と合わない人がいるものだから仕方がないことかもしれない、が。


「せめて戦闘には支障がないように」


まあ今の様子を見る限りイルには言うまでもなさそうだが、それでも一応念のため。梓董が告げれば、イルは小さく頷いて応えた。

……イルにそう注意はしたが、私情や感情を戦闘まで持ち込みそうなのは、むしろ岳羽や伊織の方だろう、と。そう思い、面倒だなどと考えている内にも、前方に先頭車両への扉が見えてきた。

思考を中断。それからすぐに全員の体力などを確認し、万全を期してその扉を開けてみる。




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