不協和音



微妙に不穏な空気が流れる中、それでも注意だけは怠らず、他に道があるわけでもないため先に進んでみることにした。後部車両から乗り込んだため、向かう先は必然的に先頭車両の方になる。……が、何故か列車内は拍子抜けするほどあまりにも静かで、予測されている大型シャドウどころかシャドウ自体の姿さえも見受けることができない。

どういうことかと訝しみながら進んで行くと、皆の目の前に突然一体のシャドウが姿を現した。


「うわっ!?」


驚いて思わず悲鳴を上げる岳羽と、すぐさま戦闘体勢に移ろうと身構える梓董とイル。だが、シャドウはこちらのことなど気にもせず、くるりと踵を返すと、そのまま先頭車両の方へと逃げるように去っていってしまう。
その様子に、見失う前にと慌てて伊織が追いかけようとしたが。


『待てっ! 敵の行動が妙だ。イヤな予感がする』
「そんなっ! 追っかけないと、逃がしちまうっスよ!?」


割って入った桐条からの通信が伊織の行動を制す。それに思わず足を止めたものの、すぐさま伊織から不服も露わな抗議の声が上げられる。

その言葉とシャドウの不自然な動きを受け、桐条からの通信は現場指揮を担う梓董へと向けられた。


『梓董、現場の指揮は君だ。この状況……どう思う?』
「慎重になるべきだ」


深く考えるまでもないとばかりにあっさりと返した梓董の答えは、当然とも言えるもの。むしろこれほどあからさまに罠だと言われて、引っかかる方がどうかしている。

……あえて引っかかってそれを打破できる実力があるというなら、話は別だが。

梓董の判断には桐条も同意を示す。しかし、そんな二人の判断に納得がいかないらしい伊織は、依然不服を唱え続けた。


「何でだよ!? イチイチお前の意見なんか要らねえよ! あんなんオレで倒せるじゃん! てかオレ一人でやれるっつーの!」
「あ、コラ、順平ッ!?」


叫ぶようにまくし立てると、伊織は他の人の意見など全く意にも介さず、勝手に一人で駆けだして行ってしまう。直後に、それを狙っていたかのように皆の背後に現れた別のシャドウから奇襲を受けてしまったが、さして強くもない相手であったことが幸いして問題なく倒すことができた。

しかしその戦闘は、伊織の姿を見失わせるには充分で。


『こうなっては仕方ない。とにかく、君らも伊織を追ってくれ。このままでは各個撃破の的だ』


どうしてこうなるのか。

全く、面倒な奴だと内心で思いつつも、梓董は桐条に短く了解と返す。いくらなんでも放っておくわけにもいかないだろう。どのみち、大型シャドウは伊織が走っていった先頭車両の方にいるだろうから、大きな手間にもならない。

そう考えながら駆けていけば、幸いにもさほど離れていない車両で伊織の姿を見つけることができた。が。


「ヤバッ、敵に囲まれてるじゃん!? 助けるよ!」


発見できた伊織は複数のシャドウに囲まれ、躍起になって剣を振り回しており、その様子を目に慌てた様子で岳羽が叫ぶ。予想通り罠だったと、そういうわけらしい。ちなみに、あからさまな罠だとわかる罠に嵌りながらもそれを打破する力は伊織にはなかったという現実を知らされたことにもなる。

とにかく、岳羽の言葉に溜息を一つもらしつつも、放っておくわけにもいかないため戦闘に割り込んだ梓董の拳が、割り込み様に一体のシャドウを消滅させた。続くように、無感動のままアングルボダを喚び出したイルが、その魔法で別の一体を倒す。残りを岳羽と伊織が二人で撃破し終えたところで、何とか場を落ち着かせるに至れた。


「言わんこっちゃない! 1人で勝手するからよ、もう。……で、だいじょぶ?」


伊織が負った傷をイオのディアで癒やしつつ、気遣うように岳羽が問えば。伊織は視線を落としたまま、不服そうな表情を浮かべ答える。


「大丈夫に決まってんだろ! っつーか、オレ1人でもいけたっつーの……」
「ちょっと、あんたねぇ!」




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