不協和音



満月。あの少年が告げた、試練が訪れるというこの日に。

……街中に、大型シャドウが現れた。










《5/09 不協和音》










本来存在しないとされる影時間。その時間内に何か……例えば街を壊されたり誰かが怪我をしたり等した場合、影時間が終わった後に「実際には有り得る事のなかった出来事」であるがための矛盾が生じてしまう。存在しない時間の中の出来事は、起こり得るはずのない出来事に他ならないからだ。
だからこそそういった矛盾を生まないためにも大型シャドウが何らかの害を成す前に早急な対処が必要だと桐条が告げた。

残念ながら真田は怪我が治っていないという理由から今回は参加できず待機となり、桐条は残ってナビを務めねばならないため、必然的に二年生組の四人で現場へ向かうことになる。経験面や実力面での不安は拭いきれないが、だからといって他にどうすることもできないのだから致し方ない。

桐条によれば、どうやらシャドウの反応は巖戸台駅から少し行った辺りにある列車内部から感じるとのことで。とりあえず皆で線路を歩き、そこへと向かえば、確かに線路上に一台の列車が止まっていた。


「これ……だよね?」


傍に寄り、列車を見上げるようにして岳羽が呟く。それにすぐさま桐条から肯定の通信が入った。


『敵の反応は、間違いなくその列車からだ。4人とも、離れ過ぎないように注意して進入してくれ』
「へへッ、腕が鳴るぜっつーか、ペルソナが鳴るぜ!」


高まる緊張感の中、どこか楽しそうに弾んだ伊織の言葉。現状を軽んじているようにも思えるその発言にイルが僅かに眉根を寄せたことに梓董は気が付いたが、顔をしかめるだけで彼女は何を言うでもなかったために特に指摘もしなかった。

とにかく、まずは入ってみなければ始まらない。

声を上げて意気込んだ岳羽が、その意気込みを活かすように真っ先に列車へ入るための入り口にかかる梯子へと手をかけるが。その途中、ふと何かに気付いた様子で伊織と梓董へと振り返ると、何故か突然二人をきつく睨みつける。


「……ノゾかないでよ」


スカートの裾を押さえてそう告げる彼女だが、伊織はともかく梓董にはそんな気は更々ない。自意識過剰ではないかと思いつつも、面倒なので梓董がつっこまずにいると。


「なら後から乗るのが無難だよ。殿(シンガリ)ならあたし務めるし、男子に先行ってもらえば?」


今までになく、突き放すような物言い。言われた当人である岳羽や伊織はもちろん、梓董も僅かに驚き、そう紡いだ人物であるイルへと視線を向けた。

普段笑っている顔が多い……というよりも、表情豊かな彼女が、今は全く感情を宿さぬ無表情でそこに立っている。

何となく、意外、だった。


「イル、機嫌悪い?」
「ごめん、ちょっと自意識過剰だなって思っただけ」
「なっ!?」
「ちょ、イル!? はっきり言っちゃマズいって!」


岳羽に問われ、さらりと返すイルの言葉に岳羽が思わず目を見開く。慌ててフォローしようとする伊織の言葉もまるでフォローにはなっていないが、自覚がない分、どう指摘されたところで岳羽には受け入れ難いことだろうと思われる。

むしろ割と直情径行にある彼女が激昂するだろうことは目に見えているので。


「……行くぞ」


面倒になる前にさっさと終止符を打つことに決めた梓董が先に列車に乗り込んだため、その意図通り、うやむやにという形ではあるが、話は切り上がった。だがそれに安堵する間は与えられず、皆が列車内へと踏み入ると、それを待っていたとばかりにすぐさま出入り口となる扉が一斉に閉め切られてしまう。閉じ込められた、というわけだ。

どうやら、こちらの存在が敵シャドウに知られてしまったと思われる。




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