新たなはじまり



「あけましておめでとう!」


心機一転。開けた年に、込める願いも様々に、けれどその意気込みを強く表すように皆集まり明るい声で新年を告げるのだった。






《01/01 新たなはじまり》






女性陣は、桐条の用意した振り袖に着替えるとのことで、男性陣は先に初詣先である長鳴神社で彼女らを待つことに決まる。せっかくなので、皆で行こう。そう提案したのはイルだったが、それに異を唱える者はおらず、伊織などに至っては、女性陣が振り袖を着ると聞いた途端に異常なまでの食い付きを見せていた。

どうやら除夜の鐘では彼の煩悩は打ち払えなかったらしい。今年も自分の欲に忠実に生きるのだろうと容易に想像できる彼のスタイルは、こんな時にも変わりがないという点だけならいっそ心強くもある。

とにかく、世界の終焉が噂され、カルトに染まりだしたこの街であっても、日本の伝統行事である初詣はしっかりこなされるらしい。ひとで賑わう長鳴神社の境内で、いつかのように伊織の妄想を聞き流しながら女性陣を待つことしばらく。一際華やかなその団体を真っ先に見付けたのは当然のように伊織だった。

そうして冒頭に至り、そこから更に賽銭箱の前に揃って並ぶ今の状況まで至るわけだ。


「さて、それじゃあみんな、なに願う?」


時間帯の問題だろう、ひとで賑わうとは言っても、そこまでひとで溢れかえっているわけでもないので、少しくらいの会話は多目に見てもらえるかもしれない。もちろん、あまり迷惑にはならない程度が前提なので、長々話し込むわけにはいかないが。

それにきっと、言葉はそれぞれ違っていても、底にある想いは皆同じはず。岳羽もわかっているからこそ、そう切り出したのだろう。


「勝利? 平和? それとも幸せとか?」
「んー、どれも間違いじゃねーけど、なんかこう......ピンとこないよなあ」


勝利は願かけるものではなく、これから皆で勝ち取ってくるもの。平和......では形が大きすぎて本質が曖昧になり漠然としてしまう。幸せもまた然り、だ。

どれも正しくて、けれどどれも今一歩。そんな感覚を、伊織が口にすれば、提案をした当人も本音は同意見だったのか、だよね、と返す。

そしてそこから意見を求められるのは、やはりいつも決まってそう、我らが頼れるリーダーである梓董だった。


「じゃあ、笑顔で」


また、笑って。笑顔で生きていけるようなそんな日々を掴みとってこれるように。

ニュクスを倒すことが目的なのではない。大切なのはきっと、その後なのだ。

そんな想いを込めた梓董の提案は、すんなりと皆に受け入れられた。


「みんなが笑顔で過ごせますように」


願う気持ちは意思でもあり、皆は揃って晴れやかにその場を離れていく。

そうしてそのままゆっくりと寮までの帰路をいく道中、もちろん黙ってなどいられませんとばかりに伊織が梓董の傍までやってきた。


「いやあ、それにしても本当来てよかった。イイよな、お正月ってさぁ!」


まだ言うか。
実は伊織は女性陣と合流してから......いや、その前からか、その頭の中は彼女らの晴れ着のことでいっぱいらしい。参拝する時だけはさすがに真面目ではいたものの、終わった途端にまたこれだ。いい加減鬱陶しい。

確かに梓董としても、今なら彼の気持ちも少しは理解できる。イルの晴れ着姿にはもちろん目を惹かれたし、かわいいと正直に伝えもした。相変わらずそうして自分が褒められることには慣れないらしい彼女は、いつものように顔中を真っ赤に染め上げていたが、当然のようにその姿にも梓董はいとしさを募らせる。正月早々、傍目からはただのバカップルに他ならないと、気付いていないのはきっと当人たちだけだろう。


「順平さんの話なんかより、みなさん、寒くないんですか?」


何気に酷い言いようで、伊織の話など踏み倒し天田が女性陣へと不思議そうに問いかけた。それはまあ、冬真っ只中だし、全く寒くないということはないだろうが......。そんなような答えを岳羽が返せば、天田の言いたかったことは別にあるらしく、彼はそうじゃなくてと続ける。


「"はいてない"って順平さんが言ってたから......」
「はいてない......?」


何の話かと一様にきょとんと目を瞬かせる女性陣に対し、慌てたのは伊織の方。すぐさま天田の口を塞いだ彼は、オレは言っていないと焦りも露に首を振る。

そんな態度をとられれば、その意味がどういった方向に向かうかなど易く知れて。思い至った事柄に、アイギスを抜いた女性全員の顔に朱がさした。


「なっ......あ、天田くんに何教えてるのよ!?」
「正月早々、セクハラなんて......美鶴先輩、処刑しちゃってください!」
「ふむ。伊織には一度、しっかりと教えておく必要があるか」
「え、ちょ、ま......ぎゃああああっ!」


岳羽の糾弾に、イルの提訴。山岸やアイギスは何も口にはしていないが、フォローを入れることもない様子から、その心情は測れる。結果、伊織の周囲に冬のそれとは違う、凍てつくような氷の刃が降り注いだが、誰も助けることはなかった。


「やれやれ、正月早々騒がしいな」
「でも、暗くなるよりよほどいいと思います」


呆れて溜息を吐く真田に、梓董はさらりとそう返す。いつも通りの自分達を貫くことができるなら、それはきっと何よりもこれからの力になるだろうから。

そういう理由からも、凍り付いて動けずにいる伊織は当然のように放置して、皆それぞれ賑やかに寮への帰路へとつくのだった。






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