きみとぼくの差



「つかさ、オレの知らない内になーんか仲良くなってね?」
「………」
「あ、シカト!? オレ寂しいヤツみたいじゃねえか! て、おい、戒凪!」


相手にしてもしなくてもオートで煩いなんて面倒な奴だ、と。溜息で語った梓董は、これ以上聞いていられないとばかりに机に伏せ、聴覚をシャットダウンさせるためにも眠りにつくことに決めたのだった。










《5/06 きみとぼくの差》










「なあ、イルちゃん。ちょっとオレッチの名前、呼んでみて」
「……伊織くん?」


昼休み。突然呼ばれたと思えば、何を言い出すのやらと不思議そうに首を傾げながら、それでも律儀に伊織を呼んでみるイル。が、せっかく彼女が答えてくれたというのに、何故か伊織はあからさまに落胆し大袈裟に肩を落としてみせた。


「そうじゃない、そうじゃないんだよ、イル〜……」
「……何が?」


意味がわからないと更に不思議そうな表情を浮かべるイルに、当の伊織はただ首を振り残念そうに溜息を吐くばかり。話にならない彼に代わり、梓董が説明を求められるも、正直関わりたくないので放っておいて欲しいと思う。

より強く訝しむイルに、梓董が渋々口を開くより素早く、復帰した伊織が身を乗り出して答えた。


「オレ、順平。ジュンペーね。はい」
「ごめん。はいの意味がわからない」


わざとなのかそれとも本気なのか。あっさりとそう切り伏せたイルは、良くわからないけど用がないならもう行っていい? と、さっさと会話を切り上げようとそう問いかける。が、何やら諦めきれないらしい伊織は、今度は梓董を指差して抗議しだした。


「なんでこいつは戒凪って名前で呼んで、オレッチは伊織くんなワケ? オレとしてはこう、もっとお近付きになりたいというか……仲間だろ? 寂しいじゃんか」
「? 仲間であることと、名前の呼び方は関係あるの?」
「あるねっ! 大いにある! 名前で呼び合った方が、何つーかさ、他人行儀っぽくないし、近しい感じするだろ?」


下らない。
心の中でそう一蹴した梓董は、とにかく関わりたくないと外方を向きだす。とにかく視線を合わせないことで我関せずを貫き通すつもりらしい。

そんな梓董の内心を知ってかはわからないが、幸いにもイルが彼に助けを求めることはなかった。


「ああ、でもそうだよね。仲良くなりたい……というか、好きな人は名字より名前で呼びたいっていう気持ちはわかるし」
「えっ、好きな人?」
「……人として、って意味だよ?」


何やら妙に食い付いてきた伊織を呆れ気味に見やり。低くつっこんでから、イルはふっと表情を緩める。


「うん、でもわかった。考えておくね」
「え、ちょ、考えてって……」
「ごめんね、あたしちょっと忙しいんだ。また後で」
「……署名?」


忙しそうなイルの態度に、ここにきてようやく梓董の視線が動いた。彼の問いに笑顔で頷くイルを見て、梓董は静かに席から立ち上がる。


「手伝う」
「へ? あ、ありがとう」


断らない辺り、この間の会話をちゃんと覚えていたということか。が、一緒に廊下へ向かう途中、イルはちらりと梓董を見上げ、少しばかり躊躇いがちに声をかけてきた。


「……いいの? 伊織くん、置いていって」
「むしろ、今あいつといたくない」
「? そうなんだ」


さらりと返す梓董の言葉に首を傾げてから頷くイルは、その理由が自分にあることに気付いてはいないのだろう。あえて説明する気もないらしい梓董は小さく息を吐くだけで、それ以上何を言うつもりもないようだ。


「て、それってオレとは仲良くなりたくないってこと!?」


という、伊織の悲痛な叫びは、閉められた教室の扉に遮られ、イル達に届くことはなかった。










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