続・GW



どうやら今日はこれで帰るらしいイルにつられるようにして、梓董も今日はもうお暇することにする。来たはいいが大して何をしたわけでもなかったなとどこか遠くで思っていた。
まあ、だからどうしたというわけでもないが。
むしろイルのお蔭だろうか、何故かコミュランクが一気に上がったようであるから得したような気もする。それが良しか悪しかを考えるのは面倒なので事実は事実として処理することにした。

小さく頭を下げ挨拶とする梓董と片手を振って別れの意を告げるイルを、老夫婦はただ穏やかに見送ってくれ。そうして古本屋を後にしたところで、イルが一度大きくのびをして告げる。


「んー。あたしこのままノート買いに行ってくるね」
「……ん」
「じゃあまた寮でね」


普通に。
それこそ当然のことのようにそのままここから立ち去ろうとするイルの姿を目に、ふと梓董の中で小さな疑問がわいた。スルーしてもいいかもしれないことだが、それほど難しい話でもないためとりあえず訊いてみることにする。


「……俺は?」
「へ?」
「署名」


その活動をするよう誘うための少し前の問いだったように思ったのだが、当のイルはきょとんと首を傾げるばかり。何やら話が噛み合っていないようにも思えたが、少ししてようやく梓董の言いたいことに思い至ったのか、イルは小さく苦笑しつつ首を振った。


「あ、ううん。署名はして欲しいけど、活動はあたしがやるからだいじょうぶだよ」


言い出したのはあたしだし、と。やはり当然のことのように告げるイルに、梓董は何を思うでもなく軽くそう、とだけ答え。
面倒にならずに済んだのだから、いつものように他人事で済ませれば良かったのに。


「……時間、ある時には付き合う」


何故か口を吐いて出たその言葉。

それは普段の梓董からは想像もつかないような積極性で。自分でもらしくないとはわかっていたが、それでもただ何となく。



何となく、少しくらい付き合ってもいいか、と、何故かそう思ったのだ。



が、そう言われたイルの方は驚いたような表情を浮かべた後、慌てて首を振り。


「いいよ、そんな。戒凪、忙しいでしょ? あたしに付き合ってもコミュ、発生しないし」
「……何それ」


コミュ云々など、おそらくというよりも、まず間違いなくイルと梓董の間でしか通じない会話。裏事情とも言えるそれを持ち出し申し訳ないからと目を伏せるイルに、何だか呆れてしまう。

別にコミュのためにしか時間を割かないわけではないのだから。

……まあ、余計なことに時間を割きたくないというのも本音であるし、つい今し方短縮されたコミュレベルをラッキーだと思ったこともまた事実ではある、が、今の梓董にはイルと共に署名活動を行うことは、別に「余計なこと」に分類するようなものではなく。それは多分、気まぐれ、なのだろうと頭の隅でぼんやり思った。


「別にイルが嫌ならいいけど」
「ええっ!? 嫌なんてそんな恐れ多い!」


……恐れ多い?

意味がわからないと、内心でやはりイルは変だと改めて思う梓董に、そんな彼の思考になど気付きもしないイルはおずおずと躊躇いがちに口を開く。


「えと……。じゃ、じゃあ、時間がある時はお願いします」
「了解」


結局。そういう形でこの話を収めた二人は、この後梓董の予定がないということから、共にノートを買いに行って帰ることにしたのだった。











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