十三番目の



母なるものは、大いなるもの。人の言葉にそれを当てはめられるものはなく、望月はそれを引き寄せるための、死の宣告者、らしい。

突拍子もない話に戸惑う皆を待たず、望月の話は更に続いていく。

十年前、一人の人間……そう、桐上の祖父だ。彼により一所に集められた、無数のシャドウ。望月はそれから生まれたのだという。

けれど当時、その結合部は不完全で、望月はその不完全な存在のままに目を覚ましてしまったらしい。それでもその力は強大で、すぐさま殲滅の命を受けたアイギスとの戦闘になったらしく、結果は相打ち。たまたまその場に居合わせてしまった一人の子供の中に、彼女が捨て身で望月を封印することで、何とか決着はついたのだという。

そうしてそのまま時は経ち、望月を封じ込めたままのその子供は、何も知らないまま成長を続け、そして。

この地に、戻ってきてしまった。まるで、そうなることが運命だとでもいうかのように。

……その、子供は。子供の名は。


「そう……君だよ。戒凪君。僕はずっと、君の中に居たんだ……」


驚きに満ちた視線が、集まる。それに応えられる余裕などないほど自身にも衝撃が走り、梓董は思わず望月を見つめた。

揺れる視線の先で、彼はただ申し訳なさそうに俯くばかり。

望月が言うには、彼が内に封印されていた故に、梓董には特殊なペルソナ能力が目覚め、それを発端に望月から散った十二のシャドウが目覚めたらしい。

……梓董の内にいる、望月へと還るために。


「……いきなり言われたって、信じられっかよ、そんなの!?」


困惑と当惑に満ちる場の中、その感情のままに伊織が吼える。そうだ、信じられるわけがない。それは、だって……。

梓董が、元凶を抱え続けていたことになるのだから。

知らなかった、気付かなかった。意図してなどいないし、梓董はむしろ被害者側ではないか。

そう思ってもいいところだろう。だけど何故か。……そう、何故か。

納得、したのだ。

ああそうか、だからだったのか。望月に、懐かしいような想いを抱いたのは。望月の傍に在ることを、むしろ自然とさえ感じていた理由は、そこにあったのだ。

お互いに意識していたわけではない。望月は梓董の中に、梓董は望月を自分の中に、そう感じていた感覚もない。

それでも。

それでも、ずっと……それこそ十年もの間、ずっと一緒に生きてきていたのだ。特別に感じないはずはなかった。


「全て……僕が原因なんだ。ごめんよ……。それに……君たちには、まだ……大事な……事を……伝え……」


ぐらり。大きく傾いだその体を目に、思わず目を見開く。


「綾時!」


すぐに支えようとするが、梓董が動くよりも望月の傍らに控えていたイルの方が早い。慌てた様子で彼を支えるイルが、ゆっくりと腰を下ろす。そんな二人の元へ皆が歩み寄り、そうして望月の様子を確認した桐条が、彼が気を失っているだけだという事実に少しだけ複雑そうに眉根を寄せた。

安堵、したくはあれど、今までの話の内容が彼女の……いや、彼女らの心境を複雑なものにしているのだろう。


「ひどく消耗してるようだな……。今日のところは、引き上げて休ませよう。アイギスの件もある」


死の宣告者。母なるもの。そして、機能を停止してしまったアイギス。……イルの、ことも。

考えなければならないことが多すぎて、誰一人思考がうまく働かない。桐条に促され寮へと戻る間、必要以上の言葉を交わした者はいなかった。






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