続・GW



連休二日目。
今日の予定としては、とりあえず最近知り合った古本屋の老夫婦とのコミュを育もうか、と。そう考えていた梓董が巖戸台にある彼らの店を訪れれば。


「あれ。戒凪?」


そこには先客、イルの姿があった。












《5/04 続・GW》












先客こと当の本人であるイルと、古本屋を営む老夫婦の話とによれば、どうやらイルは既に二人と友好関係を築いていたらしい。彼女は梓董が訪れてからも楽しそうに文吉と会話を交わし続けている。


「でもまさかイルちゃんと戒凪ちゃんが知り合いだったとはのう。月高も案外狭いのかもしれんな、婆さん」
「ふふ、本当に」


本を買うでもなく雑談に花を咲かせる学生二人を、仲の良い老夫婦は嫌がる素振りも見せずに迎え入れた。というよりも、むしろその雑談を一番楽しんでいるのは、文吉のようにも見える。

彼は妻である光子にそう語りかけ、それから梓董へと視線を移ろわせた。


「で、戒凪ちゃんはイルちゃんとどこまでいっとるんじゃ?」
「……は?」


きょとんと。思わず何を言っているのかと問い返したくなるような問いを受け、梓董が小首を傾げれば。文吉はどこか面白そうな愉しそうな笑みを浮かべて言葉を重ねる。


「ほれ。イルちゃん可愛いし良い子だし、孫みたいに思っておるから気になってのう」
「わあ、ありがとう。あたしもおじいちゃんとおばあちゃんのこと、本当のおじいちゃんとおばあちゃんみたいに思ってるよ!」
「あらあら、嬉しいわ、イルちゃん」


ツッコミどころを違えているイルに、そのまま話に乗っかった光子がいつものように柔らかく微笑した。それにより何やら会話がズレてしまったようだが、少しばかり物忘れが進行している文吉は全く気付いていない模様。

そのまま二人の会話に参加し、和気藹々と朗らかな会話が繰り広げられ始めた。

面倒事が明瞭に形を得るより早く去っていってくれたことに、梓董は内心で安堵する。イルが意図してそうしてくれたかまでは不明だが、彼女の言葉により助けられたことは事実だ。
関係の否定をし、その上で訂正するのは面倒にしか思っていなかった梓董の内心を気にする素振りもなく、どうやら話は梓董の預かり知らぬところでどんどん進んでいたらしい。

突然、イルが梓董へと真剣な眼差しを向けてきた。


「署名とか、どうかな?」
「……何が?」


あっさりと問い返す梓董は、明らかに話を聞いていなかったことを隠す素振りも見せず。かと言ってそれをイルや老夫婦が気にするかといえばそうでもないらしく、変わらぬ態度でイルが説明をしてくれる。


「柿の木。切り倒されちゃいそうらしいんだよ」
「ああ、あれ」


確か、老夫婦の亡くなった息子が植えたという。その話を思い出し、それにより先程のイルの言葉の意図を理解した。

その柿の木が切り倒されてしまうかもしれないので、反対するために署名活動はどうかと彼女は訊いてきたのだろう。


「……さあ。どれだけ効果があるかはわからないけど」
「うん。でも、何もしないよりはいいかなって思う」


やってみるねと意気込むイルに、無理しなくていいと光子は言うが。変わらぬ笑みを湛えたままのイルは、無理をしているようには見えず。むしろやりたいからやるだけだから、気にするなと告げていた。


「さて。そうと決まればノート用意しないと! おじいちゃん、おばあちゃん、また来るね」




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