GW



「うーん……、やっぱり自主練とかした方が……」
「もー、ここまで来て話掘り返さない!」
「そうだよ、理緒。学生は楽しむ時に楽しんで、動く時に動いて、遊べる時に遊ぶものなのさ!」


本分は勉強だ、とつっこむ者は生憎おらず。何故か高らかに胸を張るイルに、心から西脇が頷き同意を示せば、岩崎は流されるように小さく笑い、わかったと呟いた。


「よし、じゃあ今日は張り切って遊ぼう!」
「おー!」


軽い口調で告げて片手を上げてみせるイルに他の二人も同意し。三人は顔を見合わせて笑い合うと、まずはポロニアンモールを目指すことに決めた。












《5/03 GW》













「あー、何か久しぶりに歌ったーって感じ」
「うん、楽しかった」


カラオケ店を後にして、満足そうに笑い一度大きく伸びをする西脇。そんな彼女の言葉に岩崎が同意を示せば、西脇は隣を歩くイルへと視線を向け、軽く眉根を寄せてみせる。


「てか、イルの選曲、何? MUSESはわかるけど、何だっけ……これも私であれも私、とか」
「あ、私、輪になって踊ればグッチャグチャってところが気になった!」
「歌が入ってること自体びっくりだけど、それ選んじゃう上に歌えちゃうイルにもびっくりだよ」
「あはは、本当に」


呆れ顔で溜息を吐く西脇と楽しそうに笑う岩崎に口々に言われながらも、当の本人は不思議顔で。あたしは好きなんだけどなあ、などと一人ぼやいていた。

そんなイルに当然の如く溜息を吐く彼女の友人らは、それでもその話題を引き摺るつもりはないらしい。すぐに興味は別のところへと移ろった。


「ねえ、たくさん歌ったからかお腹減ってきちゃった。ご飯食べに行かない?」
「あ、うん。そろそろお昼時だしね。どこ行く?」


緩く笑みを浮かべ直してそう提案する岩崎に、ちらりと腕時計に視線を落とした西脇が頷く。体内時計はなかなかに正確な模様で、時計の針は西脇が言うように確かに昼時を指し示していた。

そんなわけで三人であれが食べたいこれが食べたいと好きに話し合い、しばし論議した結果、今日の昼食は西脇御用達の定食屋、わかつでとることに決まる。そうと決まれば善は急げ。全員一致の意見でとりあえず移動することに相成った。










「でも、西脇はともかく、イルには会ったばかりなのにこんなにすぐに仲良くなれるなんて思わなかったな」
「へ? そう?」
「私なんて初対面のはずなのに嫌われてるのかと思ったくらいだし」
「あ、あれは……」


注文を済ませ、食事が届くまでの団欒の時。切り出した岩崎に続く西脇の言葉に、イルの視線があからさまに泳ぎだす。

西脇とは岩崎を通して知り合ったイルだが、実は初対面で唐突にパーカーのフードを目深に被ったりあからさまに逃げようとしてみたり。まあ部活中ということもあり、本格的に逃げるには至れなかったわけだが。とにかくそんな態度を取ったものだから、西脇が訝しむのも頷けるわけで。

それでも少しずつ会話をしてみれば、打ち解けることも難しくはなく。むしろ話しやすくすぐに仲良くなれたのだから、あの時の態度がより不思議に思えても当然とも思えた。


「えーと、ご、ごめんね。あの時はちょっと混乱してて」
「混乱?」
「う、うんそう、混乱。……ごめんね」


申し訳なさそうに視線を落とし謝るイルの姿を目に、西脇は優しい笑みを刻んでくれる。疑問に思ったから口にしてみただけで、責めるつもりはないようだ。実にさっぱりした性格の持ち主である彼女らしい態度に思える。


「いいよ、もう。こうして仲良くなれたんだしね」
「結子……ありがとう」
「はいはい。もう、泣かないの」
「な、泣いてないよ!?」


ぽんぽんとあやすように西脇に頭を撫でられ、慌てて抗議するイル。そんな二人の姿を、どこか微笑ましそうに岩崎が見つめていた。


「あ、ご飯来たみたいだよ」
「よし、いっぱい食べて今日はまだまだ遊ぼうね、二人共」
「もちろん!」


運ばれてくる食事を目に告げる西脇と顔を見合わせ、全員で笑い合い頷き合う。それぞれ、まだ続く今日をどう活かすかを楽しみに考えていた。














[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -