ともの笑顔



「あ、えっと、美鶴先輩、その、ちょうど良かったです。捜していたところだったんで」


一拍遅れつつも、慌てて我に返り岩崎が紡ぐ。小さく浮かべた微笑が少しぎこちないのは、さすがに仕方のないものだと思えた。傍らで西脇とイルも窺うように桐条を見やる。


「私を? ……そうか。私も、君たちに会わなければと思っていたんだ」


……会わなければ? どういうことかと揃って目を瞬かせる後輩三人に、桐条からもれる微かな苦笑。どこか申し訳なさそうにすら見えるその表情は、けれどなんとなく…… 何か、吹っ切れたようにも見えた。


「色々と心配をかけてすまなかった。私ならもう大丈夫だ。……強がりなどではなく、な」


大丈夫、そう紡ぐ彼女の眼差しはまっすぐで……本当に、言葉をそのまま受け取ってもいいように感じられる。

それでもなんと声をかけていいかわからず顔を見合わせる三人に、桐条は更に言葉を重ねた。


「悲しくないわけじゃない。苦しさも、消えたわけではない。だが、私にはまだ残されたものがある。私のことを案じ、傍にいてくれる友がいる。だから……私は、前を向かなければな」


気付かせてくれてありがとう、気にかけ続けてくれてありがとう。紡がれる感謝は心からのもので、きっと少しは何かの力になれたのだろうと、そう思う。

ただ、そうして最終的に彼女の背を押したものは、おそらく別に存在していた。何がきっかけかはわからないが、再び立ち上がることができるようになっただけの何かが、彼女の中であったのだろう。

それが何かは三人にはわからないし、本音を言えば少し悔しくないわけではない。できることなら自分達が彼女の笑顔を取り戻してあげたかったから。そう願っていたことは、確かな事実なのだ。

とはいえ、今こうして桐条が笑っていてくれているなら、それで充分だという気持ちの方が大きい。大事なのは彼女が前を向く力を取り戻してくれたこと。立ち上がり、笑えるようになってくれたことの方なのだ。

それが、それこそが、何よりも嬉しい現実。


「そんな、私達は何も……。でも、美鶴先輩が元気になってくれて、嬉しいです。とても」
「理緒……ありがとう。イルも結子も、本当にありがとう」


また笑い合える日が来てくれたなら、それ以上に嬉しいことなどない。ありがとう、は、きっと岩崎達三人の言葉でもあるのだ。


「あ、そうだ。それで、これが私達が美鶴先輩を捜していた理由なんですけど」
「? これは?」
「開けてみてください」


岩崎が差し出した包みを受け取り首を傾げる桐条を、楽しそうな笑みを浮かべた西脇が促す。楽しそうでありながらもどこか緊張感も滲ませた三人の笑顔を前に、桐条はますます不思議に思いながらも、とりあえず言われるままに包みを開いた。

中から現れたのは、赤紫の色合いを基調とした、縮緬のポーチ。愛らしいうさぎと毬の組み合わせが目を惹く、綺麗な和柄だ。


「旅の思い出にと思って、三人で選んだんです。四人で色違いのお揃いなんですよ」


あたしは青、結子は若草色、理緒は茜色。
そう加えるイルの言葉を耳に、桐条はじっと見つめていたポーチを胸元へ抱き寄せる。そうして大切そうに抱きしめたそれを胸に、嬉しそうな、優しい優しい笑みを浮かべてみせてくれた。


「ありがとう。とても嬉しいよ。……本当に、君たちは……私にはもったいないほどに良い友人だ」


桐条にとって、身も心も引き裂かれるほどに辛かっただろう出来事。その時何ができたかなんて、何をしてあげられたかなんて、わからない。それを知るのは桐条本人だけなのだから。

だからこそ、思う。

彼女が紡ぐ友人というその言葉の重みを、喜びを、愛しさを。自分達が思うように、彼女もまた自分達のことを友人と思ってくれているなら、こんなに嬉しいことはない。

取り戻した笑顔で喜んでくれるその姿を目に、岩崎ら三人からもまた、自然と笑みが零れるのだった。







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