ともの笑顔



高校生活の中でもとりわけ重要な意味と価値を持つだろうイベント、修学旅行。秋も深まるその中で、三泊四日のそれは始まりを迎えた。

幸いにも、皆の心配をよそに、踏ん切りがついたというわけではなさそうではあるものの、桐条の姿もそこにはあり。それぞれの想いを抱えながらも、皆揃って京の地を踏むことが叶ったわけだ。

初日であった昨日は移動に時間が費やされ、主な行動範囲は宿泊する宿の中となってしまったわけだが、二日目である今日は当然それとは違う。歴史の名所巡りという、なんとも京都に見合った題材を掲げた団体行動は、金閣寺や清水寺などその題材に相応しい箇所を見学することでその目的を遂行されている。団体行動だとはいえ、その全てが規制されるわけでもないその間、岩崎と西脇は今がチャンスとばかりに、イルを誘い土産物屋を訪れることにした。







《11/18 ともの笑顔》







「これとかどう?」
「わ、かわいい!」
「え、でもどこで使うの?」
「飾りじゃない?」
「うーん、もっと実用的なものの方がよくない?」


女性が三人寄れば姦しい、とはよく言ったもので、相も変わらず揃えば賑やかないつものメンバーであれやこれやと眺めやる土産物の数々は、どれも和テイストでいかにも京都といった印象を受ける。海外からの人気はもちろん、こういったものは日本人としても好ましく、あちらこちらと目移りしてはあれがかわいい、これがかわいいと 高い声が上がっていた。

とはいえ、他にも一般の客がいるのだ。最低限の分別は守って、という形は揺るがせない。分別せずして、客たりえはしないのだから。

十人十色とはよく言ったもので、人にはそれぞれ考え方の相違や価値観の違いはつきもの。いくら仲がよくともそればかりは否めず、これがいい、それはダメ、あれはどうか、もっと別の、と、話はいくら続こうともどこにも着地を見せない。

それだけ皆真剣なのだと言えばそうなのだが、そうまでして捜しているものは他でもない。自分達への土産物だ。

せっかくだからお揃いの何かを買おう。そう提案したのは西脇。そこに嬉々と乗ったのが岩崎とイルの二人。本当はもう一人、桐条にも声をかけようとしたのだが、生徒会長故に忙しいらしく、なかなか声すらかけるタイミングを得られず今に至る。

ここ最近の彼女の落ち込みようは岩崎も西脇もわかっているし、その理由ももちろん知っていた。何せ国全体……いや、世界規模といっても過言ではないだろう、衝撃的な出来事がその理由でもあるのだから。

とはいえ、理由はわかってもできることなどたかが知れている。いや、理由がわかっているからこそ、できることなどないと思うのかもしれない。こういう時にかけるべき、かけられて嬉しいだろう言葉が見つからないのだ。

腫れ物を扱うような態度になってしまうことはきっとよくない。けれど、 だからといってどうすればいいかなんてさっぱりわからなくて。三人で話し合い、出した結論を実行しようにも、なかなか切り出すことすらできなかった。メールの一つも、言葉を選べず送れなかったのだ。

だからこそ、この修学旅行はいい機会でもあるとそう思った。桐条自身の気分転換にもなるかもしれないし、何より、話しかけるきっかけが端々で掴めそうな気がするから。今だって、こうして三人で見て回る土産物は、桐条と話をするきっかけ捜しでもあるのだ。


「これなら、美鶴先輩も喜んでくれるかな?」


ようやく議論も纏まり、三人で買いあった、お揃いのポーチ。 色違いの縮緬が柔らかくも鮮やかなそれらは、三人それぞれの分の他に桐条のものもある。

旅行先でお揃いのものを買うという行為は、女子特有の性分だろうか。生憎男性の気持ちはわかる術もないが、とにかくここにいる三人はその風潮が嫌いではない。むしろ好ましく思うからこそ、こうして自身らもそれを実行しているのだ。

手にした包みに視線を落とし、ぽつり、呟く岩崎に、イルと西脇は目を合わせ、それから小さく微笑した。


「うん、きっと」
「少しでも元気になってくれるといいね」


願うのは、笑顔。大切な存在を失ってしまった桐条にしてあげられることなどわからないけれど、でも。

笑って欲しいと、願うから。

もちろん、無理に、などではなく、心から。ゆっくりでいい。急がずとも、笑えると思えたその時に。……その時のために、傍にいたいと願うのだから。





歴史巡りと銘打たれた今日の日程も終わりを迎え、そうして戻ってきた宿泊先。結局桐条と都合があう時間はなく、他の三人にしても、揃えたのはあの土産物屋でくらいのものだった。

とはいえ、西脇、岩崎、イルの三人は宿泊する部屋が同じなのだから、宿に着けば必然的に揃うことになる。
それから時間の定められた夕食を済ませ、風呂までに少しばかり空いた自由時間を使い、揃って桐条を捜すことにした。

もちろん、昼間に買った彼女の分のポーチを渡すために。

彼女に会える可能性が一番高いのは、やはり彼女が宿泊する部屋か。そう判断しそこに向かう途中、偶然にも廊下でばったり出くわしたものだから、岩崎らは三人揃って一瞬反応が遅れてしまった。

あ、と、小さな声が互いにもれる。




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