そうして廻る



きらり、きらり。瞬く水面は空の色を映して蒼く、そして光り輝いた白を織り混ぜ眼下を照らす。朝の陽光を爽やかに視覚させるその景色が眩しくて僅か目を細めれば、ふと気付いたその気配に望月は緩やかに振り返った。

そうして視界に入ったアオと銀は、まるでこの水面のようだ、と、どこか遠く思いながら、緩く笑む。


「おはよう、イル」


偶然だね、そう続けた言葉に、彼女は柔らかく微笑んだ。







《11/12 そうして廻る》







早朝のモノレール。登校時刻にはまだ少し早すぎたかと思えるこの時間帯に、学生も社会人も姿は疎らだ。ゆったりと使える空間は、人で溢れかえる時間帯を思えば嘘のように穏やかで。そんな時間帯に出会った白い少女もまた、緩やかに望月の傍まで歩み寄る。


「偶然じゃない、って言ったら?」


細まるアオ。柔らかな光を弾くそれを向け、優しく紡ぐ言葉はどこか悪戯めいていた。

偶然、ではない。とするなれば、この邂逅は必然だとでもいうのだろうか。

あるいはそう、運命、だと。


「それでも、嬉しいよ」


ふふ、と微かな吐息に乗せ返した言葉は、彼女にとって意外なものだったのかもしれない。きょとんと瞬く大きな瞳がなんだか少しおかしくて、自然と笑みが深まりゆくのを自覚した。


「だってそれは、君が僕に関心をもってくれている、ってことでしょ? なら、やっぱり嬉しいよ」


ありがとう。続けて紡いだ言葉は何故か、自分自身の心を切なく締め付けた。

何故だろう、彼女を見ていると……いいや、彼女だけではない、彼もだ。

梓董戒凪。彼を見ていてもイルと同じ、懐かしいような暖かいような……それでいて少し寂しくなるような、そんな感情が胸を締め付けるのだ。

傍にいたい。できるなら、ずっと。だけど……。


「……外、見てたの?」


傍らからふいに問われ、知らず落ちていた視線を上げる。いつの間にか窓外に向けられていたアオを追えば、その瞳によく似た深い蒼をそこに見つけた。

きらきらと、日の光を反射して輝く様は、相変わらず目映い。


「……うん。こんな光の上を進んでいくのって……何だか嬉しくて」


混ざり合う蒼と白は、その輝きをどこまでも広げていく。その光景が強く強く胸を打ち、きれいだと思うのに……ひどく、切なかった。


「君は、不思議だな。ううん、君だけじゃない。彼も。……初めて会った気が、しないんだ」


ぽつりぽつり。瞬く水面を眺めながら、独り言のように呟く。どうしてなのかはわからないけれど、すべてを細かに語らずとも、彼女はきっと理解してくれている。そう思えた。


「何でかな。とても近くに感じるんだ。……彼も、君も。それに君は……何だかすごく、僕と似ている気がする」


見た目も口調も、まだそれほど知っているわけではないけど、きっと性格も。全く違う別の存在のはずなのに。

どうしてこんなにも近く感じるのだろうか。
どうしてこんなにも……遠く感じるのだろうか。

変だね。わけもわからず泣きたくなって、誤魔化すように小さく笑う。水面から逸らした視線の先で、それよりもきれいなアオに出会った。

きれいだ。
自然と浮かんだ感想に、惹きつけられるようにそこから目が離せない。


「僕は君を……ううん、君達を、もっと知りたい。知りたいんだ」


狂おしいほど切なくて、何故か泣きたくもなってしまうだというのに。それでも手を伸ばしたいて求めたいと、そう願う。たとえ、伸ばした手で触れる光がこの身を焦がすものだったとしても、それでもきっと願うのだ。

傍に、在りたいと。


「うん。知って欲しい。あたしのことも、戒凪のことも」


ゆっくりと、ね。笑う彼女の傍はどこまでも心地良く。

その眩しさに、つきり、と、胸が痛んだ。








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