最後の大型シャドウ



「みなさん、集まったようですね。では、現場リーダーの“勝利宣言”をお願いするであります」
「えー、と。じゃあ、お疲れさま」
「せーの……お疲れさまでした!!」


では、の振りが全く理解できなかったが、そういうものなのだろうかと、とりあえず流されるままに言葉を選ぶ。それが的確なものかどうかはわからないが、とりあえず振ってきたアイギスにはそれでよかったらしい。

せーのと言いつつ一人で繰り返すその姿に、合流した仲間達から笑みが零れる。


「プッ……アハハ、なにそれ」


肩の荷が降りた、というか気が抜けたが正しいのかもしれない。様々な事柄から解放され、そうして開放された心はきっとどこまでも晴れやかで。代弁するように笑い声がひとしきり溢れ、場の空気を和らげる。

笑うことに一段落ついたら、今度は待ってましたとばかりに祝勝会の話が始まり、寿司が食べたいと強請る伊織に、皆も嬉しそうに同意していた。寿司ネタを予約制にし始めた時は少しばかり呆れたが、今はきっとそのくらいふざけあっていた方が気分に合う。少しくらい羽目を外してもいいはずだ、というよりそうでもして喜びと達成感を露わにしたいのだ、皆。

これで、大型シャドウを全て倒し終えたことに変わりはないのだから。

楽しそうにはしゃぐ仲間達の姿に、いつしか自然とつられるように笑みを浮かべていた梓董は、ここでふと気が付いた。

一人だけ、この賑やかな空気から外れている少女の存在に。

終止符を打つ一撃を決めた白い少女が、ただ一人、一人だけ、先程までいた場所で立ち尽くし俯いていたのだ。


「……イル?」


彼女に近付き、声をかける。その様子の場にそぐわなさを不審に思って、というよりも、単純に心配になったのだ。

彼女は、ひとりで抱え込む傾向にあるのだから。

何かを改めて抱え込んでしまったのか、それとも、まだ話せない何かで悩んでいるのか。わからないが、それでもその何かが彼女の顔を、心を、曇らせるというのなら、一緒に背負えたらいい。背負いたいのだ、本当はいつでも。

そんな思いで呼んだ名に弾かれたように顔を上げた彼女は、けれどすぐさま再び俯いてしまった。そうして顔を上げることなく、消え入りそうなほど小さな声で呟いたのだ。


「……ごめんなさい」


辛うじて聞き取れたそれに、言葉を返す時間が与えられることはなく。文字通り一瞬にしてその場から“消えた”彼女に、思わず立ち尽くしてしまう。

それは人間離れした消え方にというよりも。



一瞬だけ顔を上げた彼女が、確かに涙をこぼしていたから……。



未だ盛り上がる仲間達の声も遠く、梓董の耳の奥ではイルの告げた“ごめんなさい”が離れることはなかった。








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